「組織力向上の基盤つくる」
――立候補を決断した経緯や理由を教えてください。
2014年に専務理事として日本臨床衛生検査技師会の執行部に入り、その後の副会長を含めると計8年にわたって宮島執行部の常勤役員として会務を担当しました。在任中、病棟業務を含めたタスクシフト・シェアの推進、養成教育の見直しなどを担当し、昨年6月に役職を離れましたが、その後、さまざまな会員の方から、在任中に取り組んだことがやりっぱなしになっているのではないか、それをやり遂げるべきではないかとのご指摘をいただきました。さまざまな事業の成果や課題をしっかりと評価したのかと振り返ると、そうしたご指摘を甘んじて受け入れなければなりません。
参議院議員を6年務めた宮島会長のもと現在の執行部は、対外的な折衝や渉外活動においては目覚ましい成果を挙げたと言えるでしょう。私自身、厚生労働省などと折衝する際、組織内に国会議員がいることの影響力をまざまざと見せてもらいました。それによって2018年の改正医療法や診療報酬改定などで検査界全体が恩恵を受けたわけです。
しかし、会内に目を移すと、果たしてどのくらいの会員がそうした制度改革のメリットを感じてくれているのでしょうか。大きな国の政策の方向性を理解し、一連の制度改革の重要性を感じている会員がどのくらいいるのでしょうか。これまで執行部がその都度下してきた判断に誤りはなかったと思っていますが、会員の声に真摯に耳を傾けたのか、と自問するとその点は自省を込めて不十分だったと思わざるを得ません。
会員参加の意思決定の仕組みがなければ、組織が一丸となって課題に取り組む姿勢や力は生まれません。宮島執行部がやってきた対外、渉外活動は継承しさらに発展をさせていきながら、その一方で会員がどんどんと意見を出して議論し意思決定していくプラットフォームを作りたい。次世代につなぐために今、それをやらなければ、大きく変化する医療情勢から取り残されてしまう危機感を感じています。
若手の検査技師から「技師会に入るとどんなメリットがあるのか」とよく聞かれます。そういう時に私は「これは我々検査技師の将来に対する投資と考えてください」と話します。年間1万円の会費は、我々が将来にわたって希望を持って働ける環境を作っていくための投資なのです。そのために執行部は、会員を代表して厚労省などと折衝しています。これまでも伝えてきたつもりなのですが、なかなか伝わっていません。
――どのような取り組みを考えていますか。
組織強化に向けて日臨技の支部体制の強化が必要です。中央の執行部がいくら頑張ったとしても全国の会員や地域の技師会が活発に動かなければ組織力は出ません。そのために会員に一番近い日臨技の組織である支部レベルでの活動を充実させたいと考えています(編集部注:組織上、都道府県技師会は日臨技とは別の法人)。
まずは意見交換できる「場」を設けます。会員が声を上げられる場を作り、議論の結果を政策展開に吸い上げていく仕組みを作りたい。自身の意見が政策に反映されるような経験をしてもらう中で、将来の技師会人材も生まれてくる。もちろん自分の意見が通らなかったり、納得しにくい結論になったりすることもあるでしょう。提案側がエビデンスに基づき説明責任を十分果たすことが前提ですが、もしそれで「もういいよ」「勝手にやれ」と離れていってしまうのだとすれば、それはコミュニティがうまく機能していないからです。
■ 生涯教育制度を再構築
――「自己キャリアプランの支援」も優先テーマにあげています。
検査技師のキャリアプランの道しるべとなるようラダー形式の生涯教育カリキュラムを作ります。そして、都道府県技師会の研究班、支部の学術部門、日臨技の学術組織のそれぞれの役割分担を明確にして、生涯教育制度を再構築したいと思っています。
具体的には、新人時代には信頼される検査技師を目指してもらい知識や技術を習得してもらう。認定資格は、自分の実力を測るハードルとして取得する。そうしたスキルが付いたあとには、臨床から信頼される検査技師になるために幅広い勉強をしてもらう。それによってオペ室だったりカテ室だったり、検査室の外に出ていくことができるでしょう。医師の働き方改革で拡大された我々の業務はいずれも検査室外の仕事ですから、臨床の現場に出て活躍できる検査技師を目指してほしい。検査の自動化や技術革新は今よりももっと進むはずですから検査室内の仕事は最低限の人数で行うことになるでしょう。それにも備えておかなければなりません。
各分野の検査の専門性を突き詰めていくスペシャリストも必要です。特定機能病院のような高度医療機関では、特定の分野に特化し臨床医とディスカッションできるような高度な知識や技能を持つ検査技師が求められる。それぞれの施設で検査室や検査技師に求められる役割は異なりますので、それを踏まえて自分自身のキャリアを形成できるような生涯教育制度にしたいと思っています。
■ 組織内候補の擁立必要
――「政策提言機能の拡充」も重点に挙げられています。
宮島執行部の12年間で日臨技は、その時々の医療情勢を踏まえて政府や政党、医療団体などと検査関連施策について話し合い、信頼してもらえる組織に成長できたと思います。日臨技には政策提言のシンクタンクがありませんからエビデンスに基づく政策要望を継続的にしていくことは現実的には難しい。厚労省などと話をしながら信頼関係をベースに要望を実現させていくことが求められます。
そのために日本臨床検査技師連盟が組織内候補の参議院議員を再び擁立するべきです。要望活動は厚労省や関係団体との信頼関係がベースになるのですが、やはり国民の代表である国会議員がいた方がやりやすい。
宮島議員がいたからこそ改正医療法が実現し、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種もできたと思っている方も多いはずです。できれば2年後、少なくとも5年後の参議院選挙には組織内候補を擁立すべきだと考えています。そのために職場を退職したベテランのシニア会員に活躍してもらえるのではないでしょうか。国会議員がいたから政策が実現したと知っている方々が多い今こそが連盟活動を強化するチャンスでしょう。
――会員へのメッセージをお願いします。
執行部が職能団体としてできる最大限の活動をしても物事は解決しません。やはり会員1人1人が自分ごととして考え、声を出せる体制を作ることが大事です。それが、7万人会員の組織力の強化につながるのです。私が最も会員の皆さんに伝えたいことです。
冒頭でも申し上げましたがそのための場作りに取り組みたい。世代別に意見交換の場を作り、技師会活動だけではなくて、日ごろ職場で感じていることや仕事の不安なども話し合えるようにしたい。施設によって置かれている環境はさまざまですから、周囲の意見を聞き議論することで見えてくることもあるはずです。単に先進施設を模倣するだけではうまくいきません。
いくら優秀な人であっても1人ではやれることはたかが知れてますから、重要なのはやっぱり組織力。2年かかるか4年かかるかわかりませんが、日臨技を担う次世代のためにプラットフォームを完成させることが私の役割です。
【座右の銘】
「場」を人が作り、「場」が人を育て、「場」の結束が事をなす
いかに優秀な人でも独りでなせる事はたかが知れています。皆が力を合わせるためには、多方面のベクトル(意見)をぶつける「場」(環境)を整えることがまずは肝要です。その「場」で意見交換することで人が育ち、事を成し遂げることができる。そしてうまく事を成し遂げた時にはリーダーではなくスタッフを評価する。それが新たなモチベーションになり、今まで以上に組織が活性化していきます。
【横地常広(よこち・つねひろ)氏の略歴】
1980年に静岡県立こども病院臨床検査科、1991年に静岡県立総合病院臨床検査科に入職。2008年に同技師長。技師会活動では、静岡県臨床衛生検査技師会会長などを経て、宮島喜文現会長の下で2014年に専務理事(常勤)として執行部に入り、2016年からは副会長として実務を支えた。約4年にわたって中央社会保険医療協議会の専門委員を務め、診療報酬改定を担当した。名古屋保健衛生大学(現藤田医科大学)卒。69歳。
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