「宮島路線継ぎ、学術充実を」
――立候補に至った思いを教えてください。
現執行部の代表理事副会長として宮島喜文会長の意志を継ぎ、日本臨床衛生検査技師会の継続的な会務運営とさらなる発展に向けた改革を進めていきたいというのが一番の思いです。やはり多くの課題が山積している中で、組織の継続的な活動を停滞させるわけにはいきません。私自身は、検査現場の経験だけでなく、研究や学会、教育など多方面でバランス良く経験を積んできたというのが強みだと思っています。日臨技での約12年間も含め、これまでの人生で得てきた、多くの臨床検査技師や医師、検査業界の方々とのつながり、信頼関係をベースに、私にしかできない役割を担っていきたい。長く会長を務め、実績を上げてきた宮島氏の後任は非常に重責ですが、日臨技の先頭に立って検査業界全体をリードしていきます。
――学術事業の強化や再構築を課題に挙げています。
学術部門は現在、支部内だけの活動になっており、全国組織の形に再編成します。各支部の各部門長が集まる全国会議をつくり、学術に関して北海道から沖縄までの交流を活性化させるのが狙いです。また、学術活動や研修会の場で技術や手技を学ぶ際、例えばバーチャルリアリティー(VR)や人工知能(AI)などの積極的な活用に取り組みたいです。私自身が現在、国際医療福祉大学で、こうしたコンテンツづくりに関わっており、日臨技にもそうした環境を整えていく推進部門を立ち上げたい。
学術的な活動を含め、臨床検査関連団体や学会との連携体制の強化も大きなテーマの一つになります。日本臨床検査振興協議会の加盟団体をはじめ、臨床検査技師との関わりが深い専門学会、さらには医療機関の経営母体別の臨床検査技師組織との連携を強めます。こうした団体や学会としっかり意見交換しながら、今以上に、それぞれの役割を明確にする必要があります。
――世代交代も公約の大きなテーマに挙げています。
次世代へ継承という視点での取り組みに力を注ぎます。教育者として学生と向き合っていますが、人口が減少する中で、臨床検査の世界にいかに優秀な高校生などを集められるかが大きな課題と感じています。一方で、学生確保は、今は大学を含めて約100の養成機関それぞれの努力で成り立っています。日臨技としても全国「検査と健康展」や支部学会のイベントで高校生に仕事内容を紹介したり、職業としての魅力を伝えたりしていますが、新型コロナウイルス感染症の流行を経て、臨床検査や臨床検査技師への社会的な関心が高まっている今のタイミングで、より踏み込んだ事業を展開したい。日臨技と都道府県技師会だけでなく、養成機関で組織する日本臨床検査学教育協議会とも連携し、次の時代を担う臨床検査技師に日臨技に加入してもらうため、学生会員制度の創設を検討します。
■ 役員70歳定年制、任期制も
世代交代を進めるための仕組みとして、日臨技役員の70歳の定年制や、一定の任期制などを取り入れます。理事会や会員の方の意見も聞きながら、関係規則の変更など必要な手続きを進めます。私自身が会長となっても任期は最大で2期4年と考えています。その期間で公約を実行し、後継者を育てた上で次世代につなげたい。現執行部に長くいる私が言うのは申し訳ない気持ちもありますが、こうした仕組みを決めて動かさなければ、これからの新しい人材が活躍できる土壌は生まれないでしょう。
日臨技とは別の話ですが、検査関係政策などの要望を国に働きかける政治団体である日本臨床検査技師連盟の代表を務めています。連盟との協調体制は非常に大事で、国会議員や関連官庁、学会や団体との大きなパイプを生かしながら当面は代表者を兼任したいと考えています。組織内候補としての国会議員を送るべく全力を挙げます。連盟の組織率向上や、活性化などの課題に道筋をつけて次の世代に任せます。
――国際活動、交流にも精力的に取り組まれてきました。
まずは2026年の日本開催が決まった世界医学検査学会(IFBLS 2026)の準備が当面の課題の一つです。早急に、具体的な企画やプログラムを検討し、おもてなしの心でお迎えしたいと思っています。以前から協定を結んで交流を重ねてきた、大韓臨床病理士協会(KAMT)などとの交流活動もさらに活性化させたい。この枠組みを活用し、例えば1週間程度とか、お互いの若手の臨床検査技師同士が交流し合えるような機会を設けることも考えています。
海外で活躍できる臨床検査技師の育成も大きなテーマです。日本の臨床検査技師のレベルは世界一だと思っています。人口減少時代を迎え、臨床検査技師の働く場所などが少なくなるといった話も聞くことがありますが、優れた技術や知識を持った日本の臨床検査技師へのニーズはアジアを中心に高いです。もちろん海外で活躍するための課題は少なくはありませんが、自分の夢としては、世界に羽ばたける臨床検査技師が育つ環境を少しでも整えたいと思います。
■ “生涯臨床検査技師”に
現役を退いた臨床検査技師がまだまだ元気に仕事をしたいと希望すれば、日臨技会員に残ってもらい、“生涯臨床検査技師”として活躍できる場を用意する仕組みを検討します。今はやる気があっても、情報がなかったり、どのように動けばいいかが分からなかったりというケースが多いのが現実です。ボランティアだけではなく、報酬が伴う仕事をしっかり見つけることができる方策を、多方面とも連携しながら整備していきます。
――人生で思い出深かったことはどんなことでしょうか。
忘れられないのは、2011年3月の東日本大震災です。当時は東北大学病院の臨床検査技師長で、宮城県臨床検査技師会の会長を務めていました。震災で病院の検査機能はストップし、経験したことのない大惨事の中、技師長として、また県技師会長として走り回ったことは忘れることはありません。ありがたいことに、全国からさまざまな支援を受けましたが、一方で、被災直後の現場からすると物資をうまく受け取れなかったり、連絡がつかなかったり、実際に来ていただいても食べ物も水もないし、電気も通っていない現実がありました。言葉でうまく伝えることは難しいのですが、混乱が続く中で、被災地が求めていたものと、支援する側の思いがうまくかみ合わない部分が少しあったと感じていました。経験しないと分からない感覚かもしれませんが、有事の際に支援を受ける側、支援する側の認識のズレといいますか、そのあたりをうまく理解しながら災害対策を考える重要性を強く感じ取ったと言えばいいでしょうか。
今後も、いつ、どこで、どんな自然災害が起こるかは分かりません。国際医療福祉大学に移った後、2016年4月の熊本地震も印象に残っています。地震直後に現地入りし、東日本大震災の経験を生かしながら、被災地医療や、検査機能の確保に大きく貢献することができました。東日本大震災の現場で得た教訓は、これからの災害対策に生かすことはできますし、日臨技会長として有事の際に、機動的に動ける体制は組めるのではないかと思っています。
【座右の銘】
有言実行
過ごしてきた年齢や、置かれた環境によって大事にしてきた座右の銘はありますが、会長候補者として立候補し、会員の皆さんに公約ともいうべきメッセージをお伝えしている今の立場を考えると、“有言実行”という言葉に今の思いが込められます。日臨技会長選の立候補者として、向き合うテーマ、やるべき政策など、自分の集大成として掲げた公約を、会員の皆さんの協力を得ながら必ず実現する。それに尽きると思っています。
【長沢光章(ながさわ・みつあき)氏の略歴】
1979年に防衛医科大学校病院検査部に入職し、2007年から東北大学病院臨床検査技師長、2016年からは国際医療福祉大学成田保健医療学部医学検査学科/学部長等を務め、臨床検査技師らの教育に力を注ぐ。技師会活動では、埼玉県臨床検査技師会副会長、宮城県臨床検査技師会長を務め、日本臨床衛生検査技師会では2012年から理事、2014年から執行理事、2016年から代表理事副会長を務める(現職)。日臨技の政治団体である日本臨床検査技師連盟の現代表。放送大学卒。博士(医学)/東邦大学。65歳。
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