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遺伝学的検査を患者の実名で 学会ELSI委員会が議論開始

9月の第31回学会大会では委員会企画を行った
 日本遺伝子診療学会のELSI委員会が、患者の実名での遺伝学的検査の実施に関する現状と課題の情報共有および議論を行っている。従来、遺伝学的検査の実施は匿名が原則とされてきたが、検体の取り違えが起きるとミスに気付きにくく、本当に本人の検査結果なのか、後で確認することも難しい。今後、医療機関や臨床検査センターにアンケート調査を行い、実名化の現状や課題を把握する考えで、学会誌などを通じて情報提供していくことにしている。

 検討のきっかけになったのは、2022年3月の日本医学会ガイドライン(GL)の改定。本体に付随するQ&A集の中で、臨床検査センターに遺伝学的検査を依頼する場合、患者の匿名化は必須ではないとの判断を初めて示した。匿名の検査では検体の取り違えに気付けず「医療安全の確保が難しくなる可能性」を理由に挙げた。

 これに続き、日本衛生検査所協会の「遺伝学的検査受託に関する倫理指針」が同年9月に改定された。個人情報保護と医療安全確保の両面から医療機関側の意思を確認し、結果報告方法などを契約書に定めると規定した。倫理指針にのっとりエスアールエルやビー・エム・エルなどの大手臨床検査センターはすでに実名での検査依頼に対応している。

 日本遺伝子診療学会のELSI委員会には、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー、臨床検査センターのスタッフなど、様々な立場の委員が所属しており、遺伝学的検査の実態に即して検討できる利点がある。9月に群馬県高崎市で開かれた第31回学会大会では、実名化をテーマに委員会企画を行い、各委員がそれぞれの立場から現状を報告した。

 席上、ELSI委員会の岡崎哲也委員長(岡山大学病院臨床遺伝子診療科)は、「匿名での遺伝学的検査にはさまざまな弊害がある」と指摘した。検体取り違えのリスクに加え、検査結果を家族の診療に用いる場合、「匿名では信頼性の問題がある」と述べた。

●遺伝子例外主義から脱却を

 遺伝子関連検査は大きく3つに分類され、このうち遺伝学的検査は、生まれつき持っているDNA塩基配列の違いを調べる。結果は患者の家族に影響する可能性があり、遺伝差別にもつながりかねないとされ、特別扱いされてきたが、岡崎氏は、こうした「遺伝子例外主義」からの脱却が求められていると話す。

 実名化には、院内の合意形成や説明同意文書の変更、臨床検査センターとの契約内容の変更などが必要で、病院職員へのリテラシー教育も欠かせない。実名化には、こうした整備を併せて進めていく必要があるとも指摘する。
2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

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