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〈第2回〉データ駆動型社会の到来と医療におけるデータ革命 AIリテラシー編(2)


野坂 大喜(弘前大学大学院保健学研究科/医学部保健学科、弘前大学情報連携統括本部情報基盤センター 兼任)

 
キーワード
第4次産業革命
データ駆動型社会
スマートホスピタル
 

 今回は、データ駆動型社会とは何か? また、データ駆動型医療の1つとしてスマートホスピタルを解説します。


◆第4次産業革命とは、どんな革命?

 読者の皆さまは、産業革命というワードを習った記憶をお持ちでしょう。図1は産業革命の区分と医療技術の推移を示しています。第4次産業革命とはフィジカル、デジタル、バイオロジカルの境界をなくし、従来の産業構造を根本的に変える社会を指します。


図1:産業革命の区分と医療技術の推移

 人工知能、IoT、ブロックチェーンなどの先端技術が融合することで、作業効率の向上、生産プロセスの柔軟性の向上、新たなビジネスモデルの創出などが可能になることが大きな特徴で、代表的なものとして仮想通貨、自動運転車、スマートファクトリーが挙げられます。共通するのは、自己学習や自己最適化が可能なシステムという点です。


 第4次産業革命では、後で述べる「データ駆動型」 のアプローチが不可欠で、自己学習や自己最適化のために大量のデータを収集・分析することで、予測力や意思決定精度を向上させていきます。


 臨床検査室に当てはめてみましょう。臨床検査情報を活用するという点で、検査情報システム(LIS)は検査室運用に欠かせないシステムですが、得られた検査データを基にシステム自身が自己学習し、システムを最適化させ、検査効率性を上げていくといった機能は現時点で実現していません。


 この第4次産業革命では、臨床検査室内でシステムの自己学習、自己最適化が行われることで、患者に対して個別最適化された検査の実施提案や、検査装置の運用・メンテナンスの最適な提案などが行われ、現場の臨床検査技師の働き方も最適化されていくこととなります。海外では、すでに第5次産業革命の概念の策定も始まっています。


◆データが意思や行動を駆動する

 先ほど、「データ駆動型」という言葉が登場しましたが、データ駆動型とはどのような意味なのでしょうか。「データ駆動型」とは大量のデータを収集・分析し、その情報を基にした意思決定や行動が促されることを指します。先進的なデジタル技術や情報通信技術の進展で、データが社会のさまざまな側面に浸透し、活用されるようになった結果、「データ駆動型社会」が生まれました。


 データ駆動型社会では、データそのものの価値を問わず、組織や個人が生成するあらゆるデータが収集され、高度な分析が行われます。その結果、優れた予測力や意思決定のサポートが可能となり新たな知的価値が創造されます。代表的な例が、多くの皆さんが持っている「Suica」などのキャッシュレスサービスです。キャッシュレス取引が行われる際、購入の内容や時間などの支払いデータがデジタルで蓄積されます。購買履歴や消費者の嗜好などの情報を提供し、企業やサービス提供者はデータの相互関係などを分析して、効果的なマーケティングやサービス改善に活用されています。


 同様にデータ駆動型社会において、医療機関では検査データが時系列に大量に蓄積されていますので、患者の電子健康記録、治療結果、生活習慣、遺伝子などの多様なデータと統合され、人工知能(AI)解析の結果、医療の質や効率を向上させるのに役立つ新たな知見が導き出されれば、そこから画期的な医療サービスや診断技術が創出されていくこととなります。

◆先進的デジタル技術を活用する病院

 スマートホスピタルは、先進的なデジタル技術であるAI、仮想現実(VR)、複合現実(MR)、ロボット技術を活用して、効率的かつ効果的な患者ケアや医療プロセスを管理する医療施設を指します(図2)。スマートホスピタルでは患者や医療スタッフから収集したデータを「データ駆動」させることで、医療の最適化を図っていきます。


図2:スマートホスピタルのイメージ

 スマートホスピタルの概念は着実に進化しており、いくつかの医療施設では試行が始まっています。その一例として手術室をあたかも一つの医療機器として機能させるスマート治療室(Smart Cyber Operating Theater〈SCOT〉)があり、広島大学、信州大学、東京女子医科大学で臨床研究(※)が行われています。詳細は述べませんが、AI Surgeryの過程において検査データをAI解析し、生存予後の予測や機能予後の予測、術中の危険予測を行い、治療成績の向上につなげることが期待されています。臨床検査室もまた進歩し、スマートラボに替わる日も近い将来やってくるでしょう。


 

※次回(3月21日木曜日配信予定)のAIリテラシー編(3)では、「エスカレーション、意思決定支援、スマートヘルス」などを解説する予定です。

 

野坂 大喜

PROFILE 大学病院勤務を経て現職。医用工学・情報科学を専門とし、病理画像診断システムの開発に携わる。大学発ベンチャー取締役の企業経験も有し、現在は医療AI技術や医療VRの研究を進めると共に、AI社会における言語技術教育に取り組んでいる。

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