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〈第16回〉在宅やセルフメディケーションへの展開、臨床検査室におけるAI利用(9)

  • kona36
  • 4月21日
  • 読了時間: 4分

野坂 大喜(弘前大学大学院保健学研究科/医学部保健学科、弘前大学情報連携統括本部情報基盤センター 兼任)

キーワード
スマートデバイス
スマートホームヘルス
セルフメディケーション
 本連載では検査・診断技術の新展開として、AIによって測定方法が根本から変わりつつあることを解説してきました。AIによって変わろうとしているのは、臨床検査室内の検査機器にとどまりません。現代の医療では、少子高齢化に伴い、病院や診療所で提供される医療から在宅医療へと移行が加速しています。第3回でも触れましたが、スマートヘルス技術が普及すれば、患者は自宅で自身の健康状態をモニタリングし、セルフメディケーションを実施できるようになり、それに伴い臨床検査技師の役割も大きく変わることが見込まれます。本稿では、在宅医療でのAI利用に焦点を当て、スマートデバイス、スマートホームヘルス、セルフメディケーション、そして臨床検査技師の新たな役割を考えてみたいと思います。

◆進化し続けるスマートデバイス

 スマートデバイスとは、インターネットやAI技術を活用し、ユーザーの利便性を向上させる機能を持つ電子機器を指します。分かりやすく言えばスマートフォン、スマートウォッチ、スマートスピーカー、スマート家電などがあります。近年、医療分野でもこれらスマートデバイスの活用が進み、AIを組み込んだスマート家庭医療機器が数多く登場し、在宅での健康管理をより効率的で正確なものにしています。スマートウォッチやウェアラブルデバイスは、心拍数、血圧、血中酸素濃度、さらには血糖値などをリアルタイムで測定し、蓄積したデータをAI解析します。これにより、患者自身が健康状態を手軽に把握できるだけでなく、AIを活用することで異常値の早期検出や疾病の予防が可能な時代を迎えています。

 スマートデバイスによる健康管理をいち早く診療と連携させたのが、Apple Watchで取得した健康データを活用して診療を行う「スマートウォッチ外来」(Apple Watch外来)です()。

図:スマートウォッチ外来の流れ
図:スマートウォッチ外来の流れ
◆スマートウォッチ外来の可能性

 日本では、2020年にApple Watchの心電図記録アプリと不規則な心拍を通知するアプリが医療機器としての承認を受けました。​Apple Watchでは計測した心拍データと心電図データをAIが解析し、不整脈など心疾患に関わる兆候を検出します。米国スタンフォード大学が実施した「Apple Heart Study」では、41万9297人の参加者を対象に不整脈通知アルゴリズムの有効性を評価した結果、通知を受け取った参加者のうち心電図パッチで心房細動が確認された割合は34%、通知と心電図で同時に心房細動が観察された割合(陽性的中率)は84%であったと報告されています。スマートウォッチ外来は、患者自身が日常的に健康データを記録し、それを医療機関と共有することで、より精度の高い診断や早期治療が可能となる新しい医療形態として注目されており、今後もデバイスの性能は日々向上しています。こうした日常データをシームレスに診療に取り入れる流れは間違いなく続いていきます。

 こうした技術の登場で、検査技師の皆さんの中には、「日常の心電図検査は不要になるのでは?」とお考えになる方もいるのではないでしょうか?答えは「いいえ」です。AI技術を導入したスマートデバイスは、通常の範囲から逸脱した数値や異常パターンを自動で検出し、アラートを発することで、“人間ドックや医療機関への早期受診を促す役割”を果たすものです。また、従来検査法の全ての機能を満たす万能な測定技術でもありません。

 一方で、これらのデバイスから得られる大量のデータもまた診療用参照データとして活用するので、検査技師はデータ管理や解析において引き続き重要な役割を担います。そして、AIが示す結果の信頼性を検証し、適切なフィードバックを行うことも求められますので、検査データスペシャリストとしての検査技師の専門知識はこれからも必要不可欠であり、担う役割も広がっていくことでしょう。

※次回(5月22日木曜日配信予定)の第17回では、「スマートデバイス、スマートホームヘルス、セルフメディケーション(後編)」を解説する予定です。

野坂 大喜

PROFILE 大学病院勤務を経て現職。医用工学・情報科学を専門とし、病理画像診断システムの開発に携わる。大学発ベンチャー取締役の企業経験も有し、現在は医療AI技術や医療VRの研究を進めると共に、AI社会における言語技術教育に取り組んでいる。


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