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〈記者コラム〉結果オーライ

 「それは女性が受けるものですよ」。数年前、自宅近くのクリニックにHPVワクチンの接種料金を聞きに行ったことがある。接種するのはもちろん、定期接種の対象である高校生の末娘ではなく、50歳をとうに過ぎた私である。娘にワクチンを受けさせようとしたら妻が副反応を不安がるので、ならばまず自分で受けてみるかと思い立ったのである。クリニックの受付の女性は、けげんな表情を浮かべた後、「院長に聞いてきます」と裏手に下がり、確か数万円の接種料金を教えてくれた。

 最近、中咽頭がんの罹患率が増えているそうである。しかも喫煙や飲酒ではなく、HPV感染による罹患である。この仕事の良いところは、記者向けのセミナーがたくさんあって勉強する機会に恵まれていることだが、その一つで専門医がそう話されていた。

 いわく、HPV関連がんは6種類あり、子宮頸がんが有名だが、日本では中咽頭がんも多い。またこのがんは50歳以下の男性に多い。ならば男性もワクチン接種をしたらいいと単純に思うが、HPV感染との関連を示す疫学研究はあってもワクチン接種の有効性を評価したエビデンスはまだないそうである。厚生労働省の委員会でも今年、検討されたが、費用対効果が低いとの理由で議論が進んでいない。

 子宮頸がんだって性交渉を通じて感染するHPVが原因の一つであるなら、そのリスクを女性だけが負ういわれはないと思うが、男性の定期接種化はなかなか実現しそうにない。

 それで私のワクチン接種はどうなったかというと、費用が高くて結局、断念してしまった。東京都や北海道、茨城県などの一部の自治体には補助があるが、残念ながらうちの市にはない。そもそも私が大丈夫だったとしても娘には関係しないことであるので、全く無駄な行動であった。だが、娘は無事に3回のワクチン接種を済ませたので結果オーライである。(枇)
2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

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