インタビュー「きらり臨床検査技師」は臨床検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた臨床検査技師を紹介します。(MTJ編集部)
所属施設の業務だけでなく、東京都臨床検査技師会の事務局長、日本医療検査科学会、日本臨床救急医学会の評議員など施設外の活動にも積極的な竹澤理子さん。アクティブな印象があるが、実は「自分に自信がなくて、人前に出ていくのは苦手なタイプ」。20代から30代前半までは検査部での日常業務を受け身でこなす日々だった。
対外的な活動に目覚めたきっかけは、他施設の先輩臨床検査技師らとの出会い。現在は、技師長的な役職に就き、働きやすい環境づくりに注力する。自身のキャリアを振り返り、若手へ向けたメッセージを頂いた。
◆「縁の下の力持ち」に魅力を感じて
―臨床検査技師を目指したきっかけと、これまでのキャリアを教えてください。
高校時代、姉からもらった職業紹介のガイド本を読んで臨床検査技師という職業を初めて知りました。医療を支える「縁の下の力持ち」と書いてあり、人前に出るのは苦手なので、そこに魅力を感じたのを覚えています。人と同じものを選ぶのが嫌いなところもあり、看護師や薬剤師といった認知度の高い医療職ではなく、あまり知られていない臨床検査技師を選びました。
生まれ育った栃木県小山市を離れ、東京医科歯科大学医学部附属臨床検査技師学校に進学しました。1991年4月に三井記念病院に入職、今年で勤続33年になります。入職後は生化学検査に始まり、一般検査や細菌検査などを担当しました。
プライベートでは入職した翌年に結婚し、子ども2人を出産したので、仕事と育児に追われていた20代だったと記憶しています。30歳代前半、子育てが一段落するまでは仕事に対して受け身で、上司に指示された検査業務をしっかりこなすというスタンスでした。認定資格の取得にも前向きでなく、上司に促される形で日本臨床検査同学院の二級臨床検査士(微生物学)を取得したのが最初の資格です。
◆悶々と悩んだ30代、他施設の臨床検査技師との出会い
―施設外の活動を始めたきっかけを教えてください。
30代になってキャリアを重ねていくと、所属施設でさまざまな問題点に気付くようになってきました。こうすれば臨床検査技師の働き方がもっと良くなるといったアイデアはあるのですが、役職がないと提案する場が少なかったり、上司に提案してもなかなか受け入れられなかったり、何も変わらない現実に直面して、一人で悶々としていました(笑)。
そんな頃、SNSのミクシィを通じて他施設の臨床検査技師の悩みや思いを知ったり、活躍をしている先輩技師から刺激を受ける機会が少しずつ増えていきました。他施設の臨床検査技師の考えや取り組みを知ることで、目の前の仕事への意識が少しずつ変わっていきましたね。
一個人ではどうしても解決できない問題はどこにでもあるので、それを悩み続けるのではなく、まずはその時の自分の立場でできることをしっかり頑張ろうと考えるようになりました。物事を考える際の視野や活動の幅が広がり、気持ちの切り替えがうまくできるようになりました。
―30代後半から認定資格の取得や、施設外の活動が活発になっていますね。
他施設の臨床検査技師との人脈が広がり、その中には認定資格の取得に積極的な方がいたり、新しい認定資格の立ち上げに関わっている方もいました。私自身も、業務に必要な知識や技術を客観的に評価できると思い、認定資格取得にチャレンジするようになりました。基本的には自分の担当業務に関連する資格を随時取得しています。臨床検査技師として、最も携わっているのは微生物検査ですので、日本臨床微生物学会の認定微生物検査技師や感染制御認定微生物検査技師などを取得しています。
40代に入り、レスキュー隊で活躍していた友人を亡くしたり、会う約束をしていた友人を心筋梗塞で突然亡くしたりする経験をして、救急医療や災害医療、POCT関連の認定資格にも興味を持つようになりました。日本臨床検査自動化学会(現・日本医療検査科学会)の認定POCコーディネーター、日本臨床衛生検査技師会の認定救急検査技師などを取得し、さらに千葉科学大学大学院危機管理学研究科で危機管理学を専攻し、2022年3月に卒業しました。50代になってからは、組織管理を学ぶ必要性を感じて日臨技の医療技術部門管理資格認定、さらにその上位資格の医療管理者認定を取得したのが最近の認定資格ですかね。
都臨技では理事、事務局長を務めています。技師会の活動は、所属施設で地区幹事を務めていた方がおり、私の日常業務の様子を見て後任にと声をかけていただいたのがきっかけです。裏方としてイベントの企画や運営、準備といった作業が好きなので、そんなところが適任と思われたのかもしれません。ボランティアではありますが、技師会の活動にやりがいを感じていますし、何事も頼まれたことは断らずに引き受けるようにしています。
◆目の前の業務の中に、楽しさ見つけて
―今後の夢や目標を教えてください。
所属施設では昨年8月、検体検査部門のマネージャーを務めることになりました。いわゆる技師長職になり、検査室運営や臨床検査技師の働き方などを考える時間が増えています。医療従事者の働き方改革も進んでおり、若い世代は業務時間と業務時間外をしっかり切り分ける意識も高いと感じます。業務時間内にスキルアップができるように、教育研修の仕組みを落とし込んでいくことは難しい課題だと思っています。部門内の業務ローテーションを工夫して休暇を取得しやすくしたり、効率的な運営のために組織の在り方を見直したりするなどして、より良い職場環境を整えていきたいです。責任ある立場になり、今までの出会いやさまざまな活動で培った人脈や経験、知識やスキルなどを後輩に引き継いでいきたいという思いも強くなりました。
―若手の検査技師へのメッセージをお願いします。
私の経験がどこまで参考になるかは分かりませんが、受け身で業務をこなしていた20代があって、30代後半に自施設外の人との出会いで視野が広がりました。最初から物事がうまくいくことはありませんし、私自身も目の前のことを一つ一つ向き合いながら今があります。若い臨床検査技師の皆さんには、まずは目の前の業務に一生懸命取り組む中で、何か楽しいと思えること、心を動かされることがあればぜひ、行動してみてほしいです。それを見つけて掘り下げていけば、新しい道が開けてきますし、自身が成長できる機会にきっと巡り合えると思っています。