top of page

〈インタビュー〉内田理佐さん(宮崎県議会議員)「検査技師の社会的地位を上げたい」


 インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)

 
 臨床検査技師として、病院検査室での実務経験を約10年間積んだ後、自民党所属の宮崎県議会議員として活躍しているのが宮崎県延岡市在住の内田理佐さんだ。入職先の理事長の政治活動を手伝う形で少しずつ興味を持ち始めた政治の世界。医療だけでなく、さまざまなテーマを扱うようになった今も、臨床検査技師の「社会的地位を上げたい」という思いを胸に政治活動に向き合う。延岡市議会議員を12年経験し、宮崎県議会議員6年目を迎えた内田さんに、政治家に転身したきっかけや、臨床検査技師が政治に関わることの重要性などを語っていただいた。
 
―政治家になる前は病院検査室で勤務されていました。臨床検査技師を目指すきっかけや、検査室で担当されていた業務を教えてください。
 学生時代から医療職に就きたいという思いがあったわけではないのですが、小学生の頃からヒトの体の仕組みに興味がありました。学科で言えば生物が好きで、顕微鏡で細胞をのぞいたり、小説よりも解剖の本を読んでいたりした記憶があります。高校の進路相談では、ずっと熱中してきたバレーボールを続けたかったのですが、生物が好きという延長線上で、臨床検査技師という職種を高校の先生に教えていただき、自分に合っている職業に感じたのがきっかけになると思います。

精神科病院入職から数年後、25歳ごろ(右上)
 当時、県内に臨床検査技師の養成校はなく、熊本県の銀杏学園(現・熊本保健科学大学)で、臨床検査技師になるための知識や技術を学びました。学生時代には熊本県臨床検査技師会長を務めた梅橋豊蔵さんとの出会いもあって、臨床検査技師の役割や、やりがいなどを教えていただき、多くの刺激を受けながら医療職として社会貢献するイメージを膨らませていったのを覚えています。

 そのまま熊本で働くつもりだったのですが、地元の友人から「延岡に帰ってきなよ」と手紙をもらったりする中で、地元に恩返しがしたいという気持ちが強くなってきました。いろいろと悩んだのですが、延岡に戻ることを決めると、すぐに市内の精神科病院の検査室に入職することに。臨床検査技師は数人しかおらず、生化学や一般、血液などの検体検査を中心に幅広い業務を担当しました。精神科病院で外注検査も多く、そうした管理業務などを担っていましたね。

◆入職先で選挙活動の手伝い、33歳で市議会議員に

―検査技師として約10年を過ごした後、市議会議員に立候補します。政治にはどういった理由で興味を持ち始めたのでしょうか?
 興味のなかった政治との出会いは、病院の理事長が地域の選挙活動、支援に非常に熱心な方であったことが大きいです。入職直後の地元の国政選挙で、うぐいす嬢として選挙カーに乗ったことから始まり、さまざまな選挙の度にお手伝いする機会がありました。選挙に関わる中で、政治の仕組みを理解したり、知り合いが増えたりして、少しずつ政治に関心を持つようになって。また、延岡はお祭りなどのイベントが多い所で、ボランティアで手伝う機会も多くあり、そこでまた、地域で活躍されている方々とのつながりも広がっていきました。

 それと女性が多い職場でもあり、仕事と子育てを両立しやすい環境づくりや、より住みやすい地域にするために必要なことは何かを考えることが増え、知り合いの政治家に相談する機会が多くありました。ただ、どうしても男性目線といいますか、女性の視点で物事を理解してもらうことは難しいと感じていて、その頃は、興味あるテーマを取り上げる市議会を傍聴したりして、議会の流れはある程度は理解していたので、であれば私自身が政治家になればいいんだと。社会の物事を決める場にいる重要性を感じていたことと、医療を含めてこれからの地元に貢献したいという思いがマッチして、延岡市議会議員に当選したのが33歳になります。

◆コロナ禍で延岡病院検査室に

―市議会議員、県議会議員としてキャリアを積まれていますが、どのような政治活動に取り組んでいるのでしょうか。臨床検査技師としての経験が生かせる場面はあるのでしょうか。
 県議会議員としては医療だけでなく、幅広いテーマに関わるのですが、臨床検査技師の現場経験があるので、医療や介護、福祉分野での視察や相談を受ける機会は多いですね。県議会では医療従事者の確保や、医療分野での他職種連携の必要性なども取り上げますし、コロナ禍では緊急時の医療体制の問題や、医療従事者への慰労金支給の運用改善に関する要望活動までいろいろと動きました。

 コロナ禍では臨床検査技師の経験を生かせる場面もありました。県立延岡病院で一時期、PCR検査体制を確保できず、短期間ではありますが私自身がサポートさせていただきました。病院長から臨床検査技師が足りないという要請があり、知り合いを当たりましたが皆さんに断られてしまって。臨床検査技師である私が支援に入ることも県議会からは当初難しいという判断でしたが、人手が足りずに外来も手術もストップする状況下であり、最終的には支援に入りました。1カ月ちょっとですかね。若い頃を思い出しながら検査業務に向き合う貴重な経験をさせていただいたと思っています。

コロナ禍で支援に入った延岡病院検査室で(中央)
 延岡は地理的なアクセスが悪いこともあって、医師や医療コメディカルの確保が難しい地域です。そうした中で、市議時代に延岡市の九州医療科学大学に臨床検査技師の育成コースをつくる後押しができたのも印象に残っています。新しい学科をつくるには費用もかかるし、賛否両論ありましたが、臨床検査技師が足りないという話を地元で聞く機会が多かった。延岡で臨床検査技師を育てることができる環境を整えたいと強く思いましたし、何とか実現に協力できたのも、政治家としてやりがいを感じた出来事の一つです。

―臨床検査技師は政治への関心が低い方が多いのが現状です。職能への社会の評価を高めるためには政治の力が必要だと思いますが、どのようにお考えでしょうか。
 日常業務に関係する研修会や勉強会に熱心な方は多いですが、政治に関心のある方が少ないということは私自身が強く感じています。政治家になって、看護師や他の医療コメディカルの集まりなどに参加する機会も多いのですが、彼らは自分達の職能や待遇が政治とのつながりがあって守られていることを理解しているし、そのことを若手にしっかりと伝えています。他の医療職の一体感のある連盟活動を見てしまうと、臨床検査技師の連盟活動の現状に危機感を抱いてしまいます。

 臨床検査技師であり、政治家でもある立場として、臨床検査技師の皆さんが働く環境をより良くするために必要なことを発信し、行政や国に伝えていく役目があると思っています。意識するのは、言うまでもなく臨床検査技師の社会的な地位を上げていくことですよね。検査のプロとしての存在意義や必要性を広く認めてもらい、賃金も含めてもっと魅力ある職種にしていくためにはどうしても政治の力が必要です。病院経営や賃金に直結する診療報酬に、臨床検査技師の役割や存在をどのように位置付けるのか、そうしたことをしっかり主張していく政治家が不可欠なんです。

◆検査技師の声を届ける存在は必要

―検査技師資格を持つ数少ない政治家の一人として、現場で活躍されている検査技師の皆さんへのメッセージを頂ければと思います。
 専門分野でのキャリアを積み、検査部門で活躍している臨床検査技師に憧れがある一方で、検査室の外に目を向ける臨床検査技師が増えてきてもいいのかと思います。医師の働き方改革に伴うタスクシフト・シェアで臨床検査技師が果たす役割も変化しつつある中で、私達の職能の可能性を社会にアピールする必要があると思っています。臨床検査技師として培ったスキルや知識は、病棟や救急はもちろん、在宅、介護という分野で必要とされる時代を迎えていると思っています。

宮崎県臨床検査技師会の集まりで(前列左から4人目)
 そして、繰り返しにはなりますが、臨床検査技師の職能をさらに発展させていくには政治とのつながりが欠かせないということを多くの若手検査技師にも知ってもらいたいし、理解してもらえるとうれしいです。それが自分達の明るい未来に必ずつながってきます。臨床検査技師のこれからを考え、国政にそうした声を届ける意欲のある方が出てくればぜひ、全力で応援したいです。私自身も政治家として、より多くの臨床検査技師に政治、選挙に興味を持ってもらえるような実績を少しずつ積み重ねていければと思っています。


Comments


その他の最新記事

bottom of page