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〈インタビュー〉松井京子さん(富家病院検査科)「臨床検査データを基に他職種に提案を」


 インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)

 
 医師の働き方改革推進を目的としたタスク・シフト/シェアでは、臨床検査技師もその一翼を担うことが期待されている。慢性期医療を提供する富家病院(埼玉県ふじみ野市、261床)では病棟採血の約9割を臨床検査技師が担当しているほか、皮膚の検体採取を手がけている。新型コロナウイルス感染症の流行を受け、臨床検査技師が鼻咽頭拭い液を採取し、さらには上部内視鏡検査の生検組織の採取も行っている。
 検査科科長の松井京子さんは、慢性期病院での臨床検査技師の病棟業務について「病棟採血や検体採取を手掛ける中で臨床検査技師の仕事ぶりがチームの中で認められ、任される業務が徐々に拡がっていった」と話す。臨床検査技師が新たなタスクを引き受けるには、検査データを基に診断や治療につながる提案をし、多職種との信頼を積み重ねていくことが大切だと考えている。
 
臨床検査技師が病棟採血の約9割を担当

富家病院で、臨床検査技師が担っている業務を教えてください。
 富家病院では検査科所属の臨床検査技師が院内の検査業務や病棟業務を行っています。輸血、グラム染色、尿沈渣は院内で行い、生化学検査は外注です。慢性期医療が中心で寝たきりの患者が多く、病棟採血の約9割は臨床検査技師がベッドサイドで行い、心エコーや、シャントエコーなどの生理検査も担当しています。このほかには皮膚や鼻咽頭拭い液を採取していますね。

 長期入院の患者が多いので、院内でクリスマス会や秋祭りなどの行事があります。臨床検査技師も、そうした行事に参加しています。臨床検査技師は内気でおとなしい人が多いとも言われますが、こうした行事には学校の部活動のような雰囲気で楽しく取り組んでいます。
―臨床検査技師になろうと思ったのは、なぜですか。
 高校生の頃、青年海外協力隊の記事を読んで憧れていました。ただ、記事で取り上げられていたのは土木工事の業務だったので体力的に難しいかなと思っていて…。ところが電車での中づり広告で、青年海外協力隊に医師、看護師など医療職の募集があるのを見つけたんです。

 ちょうどその頃、母が臨床検査技師の知り合いから仕事内容を聞いていて、理科の実験が好きな子どもでしたし、手に職をつけられる国家資格でもあるので「あなたに合うんじゃない?」と話してくれました。私自身も興味が湧いて、青年海外協力隊にも応募できる資格であることも知り、養成学校に見学に行きました。元々、これと決めたらまっしぐらに行動するタイプで、進路を決めるのは早かったですね。結局、青年海外協力隊には応募しなかったんですが…(笑)。

◆就職難で健診、治験企業へ

―臨床検査技師としてどのようなキャリアを形成されてきましたか。
 養成学校を卒業した1999年は、かなりの就職難の年だったと記憶しています。卒業後しばらく中学・高校に行って心電図をとるアルバイトをしながら就職先を探していて、最初に就職したのが健診を請け負う企業でした。都内からバスで地方に行き、工場などに勤めている従業員を対象に健診をする仕事でしたね。採血や心電図検査を担当するのですが、地方のビジネスホテルに1週間滞在して帰ってくる勤務が心身共につらく、半年で転職することに。次に勤めたのはSMO、いわゆる治験を行う企業で採血や検査業務を担当しました。その後に移った製薬企業でも派遣社員として治験業務を担当しました。プライベートではこの頃結婚し、そして妊娠を機に退職しました。

 30代半ばになって、母が子育てを助けてくれる環境もあって再就職することにしました。ちょうど富家病院の求人があって応募したのですが、仕事のブランクが5年ありましたし、子どももまだ幼かったので、最初はパート勤務を希望していました。当時の看護部長から「皆、お互いに迷惑をかけながら仕事しているのだから大丈夫。働いたらパートも正職員も責任は同じよ」と励まされ、正職員として勤務することになりました。
―採血や検体採取などの病棟業務には、どのように携わるようになったのですか。
 入職した時、前任の臨床検査技師がすでに産休に入ってしまっていました。透析室担当の臨床検査技師は1人いたのですが、院内の主な検査業務は私1人で引き受けることになりました。富家病院ではもともと検査科が独立しておらず、ナースサポートチームの中に臨床検査技師が所属していたので、臨床検査技師が私1人であっても、それほど不安になることはなかったですね。検査のオーダーを受けて、一つ一つ、目の前のことをこなしていきました。富家病院に入る前に病院勤務の経験がなかったので、他と比べることもなく、気付けば業務になじんでいたように思います。

 病棟業務は、臨床検査技師の方が向いているものを自然に任されるようになっていきました。採血はその一つだと思います。私が入職した2011年は、疥癬の流行が問題となった年でした。当初は看護師が皮膚の検体採取をしていましたが、検査に適した検体採取が難しいということで、臨床検査技師に任されることになって…。そこで他職種から「検体採取は臨床検査技師に任せた方がうまくいく」という信頼を得ることにつながり、新型コロナ流行期の鼻咽頭ぬぐい液の採取も任されるようになったのではないかと感じています。

 院内での臨床検査技師が担う業務が少しずつ増える中で、臨床検査技師の採用数も増えていきました。今では臨床検査技師は6人で、そのうち1人が人工透析室に常駐し、検査科所属の5人が病棟採血や検体採取で主体的な役割を担えるようになってきました。

 病院長が臨床検査の重要性を理解している点も大きいかもしれません。慢性期医療を中心とする病院ですが、輸血を迅速に実施したいということで、以前は外注していた輸血検査を院内で実施できる体制に切り替えました。また、微生物検査もグラム染色は院内で実施できるようにしています。輸血検査やグラム染色では、大学から講師を招いて教育研修の機会を設けてもらいました。PCR検査機器も比較的早期に導入するなど、院内で必要な検査は体制をしっかり整えるという方針がありますので、臨床検査技師に求められる役割や期待に応えていきたいです。

―病棟業務の推進に向けて、アドバイスをいただけますか。
 病棟業務やタスク・シフト/シェアに関する考え方や取り組みは、施設によってさまざまだと思います。ただ、どのような施設であっても、臨床検査については臨床検査技師が他職種よりも詳しいです。その点を強みにして臨床への貢献を考えていくと、臨床検査技師にできることはたくさんあると思います。

 例えば、出血が続いて輸血が必要と思われる患者の対応では、血算のための採血時に輸血検査に必要な血液量を確保しておきます。血算のデータを確認して、臨床検査技師から医師に「輸血しますか?」と尋ねることで、より早く輸血の対応ができます。また、患者の白血球が高値でグラム染色を実施したものの喀痰にも尿にも好中球がない場合、「褥瘡の可能性があるのでは?」と臨床検査技師から看護師や医師に伝えることができます。検査結果から読み取れることをチームで共有することで、早期治療につなげることができると思います。

 検査を実施する際、得られた結果がその先の診断や治療にどうつながるかを意識して行動することも大事です。検査結果から病態を推測し、臨床検査技師から何か提案できる部分があれば医師や看護師に積極的に働きかけてみる。そういった姿勢が、臨床検査技師による病棟業務やタスク・シフト/シェアを広げることにもつながってくるのではないでしょうか。臨床検査技師が持つ知識や技術を生かし、医師や看護師とコミュニケーションを深めていくことで自然と活躍の場は広がってくると思います。



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