〈インタビュー〉菊地茉莉さん(杏林大学医学部付属病院遺伝子診療センター、杏林大学医学部臨床検査医学)「自ら挑戦し、答えを見つけてほしい」
- mitsui04
- 3月21日
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更新日:4月2日

インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)

杏林大学医学部付属病院遺伝子診療センター(東京都三鷹市)の菊地茉莉さんは、遺伝カウンセリングの専門家「認定遺伝カウンセラー」だ。患者や家族と対面で相談を受ける業務を思い浮かべる人が多いかもしれないが、実際の業務は幅広い。
患者や家族などのクライエントの相談に対応できるよう、疾患について国内外の文献情報を調べる。遺伝学的検査前には、保険適用の有無や検査の外注先、検査法を確認し、検査後のバリアントをデータベースで確認するなど結果解釈も支援する。遺伝子診療センターの体制構築を行う中で関係者との調整役を担うことも少なくない。
菊地さんは大学時代、医療職を目指す学生のサークル活動を通じ、患者への健康教育や疾患啓発が重要だと考えるようになった。進路を考えていたとき、遺伝カウンセラー養成課程の新設を知って挑戦。臨床検査資格を持つ遺伝カウンセラーとして約17年のキャリアを積み重ねてきた菊地さんに、仕事のやりがいなどについて話を聞いた。
◆サークル活動きっかけに、遺伝カウンセリングの道へ
―検査技師養成課程を卒業後、すぐに遺伝カウンセリングの道に進んだのですか。
高校生の頃はバイオサイエンスや環境問題に関心があり、農学部を検討していました。ただ、母から「女性は手に職があったほうがいい」と強く勧められました。臨床検査はバイオサイエンスに近い印象があり、国家資格を取得できることから、金沢大学医学部保健学科検査技術科学専攻に進学しました。
大学時代は、弓道部と医療系サークルを掛け持ちしたため、学業以外が忙しかったです。医療職を目指す専門の異なる友人から影響を受けたことがこの道に進むきっかけになりました。サークルでは、アジアの医療機関やJICA、NGOの視察、IFMSA-Japanの総会への参加、ぬいぐるみを使って子ども向けの健康教育をする「ぬいぐるみ病院」などの活動をしていました。これらの友人から、病院実習の話を聞いたことも刺激になりました。
健康や予防についての教育・啓発が今後重要になると実感しました。臨床検査技師にとらわれず、漠然と患者や市民と関わる公衆衛生の仕事がしたいと考える中で、京都大学大学院に「遺伝カウンセラーコース」が新設されることを知り、挑戦しました。
―遺伝カウンセリングは、どのような知識・技術が必要なのでしょうか。
大学院では、臨床遺伝学・ゲノム科学、カウンセリングスキルをはじめ、社会医学全般を学んで、遺伝カウンセリング症例へ陪席しました。1期生として学び、そこで培った人脈も、現在につながっています。
遺伝カウンセリングでは、遺伝医学的な情報提供とそれに伴う心理社会的支援を行います。遺伝医学に関する情報収集を行い、遺伝カウンセリングにおいて全体を調整することも多く、予約調整からセッション、フォローアップ、遺伝学的検査の結果解釈の支援に関わります。当院入職時には遺伝子診療センターの立ち上げに携わったため、関係者や他部署との間に入って調整するコミュニケーションスキルも求められました。何より大切なのは、遺伝性疾患や遺伝に対する不安を抱える患者や家族が何を希望しているかを受け取り、遺伝カウンセラーが医師や他職種も含めたチームとして、現在できることを考えながら仕事をすることです。
遺伝カウンセラーには医療系だけでなく、理工学や教育・心理学などさまざまなバックグラウンドを持つ方がいて、それぞれの学歴や職務経験が強みにもなっています。患者対応には、自身のライフステージに伴って人生経験を積み重ねることも生きるかもしれません。
私は、病院勤務を考えると臨床検査技師の資格があって良かったと今は感じます。検査技師の実務経験はなく、一般的な検体検査や生理機能検査のデータはまともに読めません。遺伝カウンセリングでは患者や家族に常に目を向けていますが、遺伝医療の体制構築や臨床研究に関わるときは、疾患全体や遺伝学的検査の側面からアプローチも重要なため、臨床検査の考え方は生きているかもしれません。過去に遺伝子解析研究に関わり、研究事務局や検体受付、検査の実施、結果解釈という一連の業務を経験したことも、体制構築や患者・家族への説明に役立っています。
