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〈インタビュー〉河月稔さん(鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座講師)「認知症領域への取り組み、臨床検査技師は今がチャンス」

  • mitsui04
  • 5月14日
  • 読了時間: 7分

 インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)

 超高齢社会である日本において、認知症対策が国家的な課題となっている。優れた治療薬開発が話題になりがちだが、認知症患者の早期発見、治療開始につなげるための認知症検査の技術革新も急速に進んでいる。2023年12月から、アルツハイマー病に対する新薬投与の要否を判断する目的で、病因と考えられている脳内アミロイドβ蓄積を脳脊髄液から調べる検査が保険収載された。
 鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座講師の河月稔さんは、大学院修士課程を修了した後、故郷の神戸市に戻り、臨床検査技師として病院検査部門に入職。臨床検査業務を3年経験した後、鳥取大学の教員職となった。キャリアを方向づけたのが、大学院時代に基礎研究で携わった認知症だった。
 河月さんは現在、臨床検査技師を目指す学生教育のほか、認知症の早期発見や治療評価に応用できる検査の研究、認知症の予防プログラムの開発などに携わる。認知症分野でこれからの臨床検査技師に期待されている役割、今後の可能性などついて話を聞いた。
―臨床検査技師として通常、認知症に関わる機会は多くないような気がしますが、どのようなきっかけで認知症に興味を持ち、研究や予防対策に関わるようになったのでしょうか。

 鳥取大学大学院で、認知症を専門に研究をしている浦上克哉教授(同大学医学部保健学科認知症予防学講座)のもとで認知症の基礎研究に携わったことが最初のきっかけです。大学4年生の時に修士課程までは進みたいと思っていて、先輩から大学院の情報を収集する中で、浦上先生がされていた認知症の研究は面白そうだなと興味を持ちました。それまで認知症への関心が特にあったわけではないのですが、大学院でアルツハイマー型認知症の早期発見のためのバイオマーカー検索を研究テーマに取り組みました。ただ、当時は研究職は考えておらず、修士課程を終えたら故郷の神戸市で臨床検査技師として就職しようと決めていたんです。

 2012年に神戸市立西神戸医療センターに入職しました。地域の中核病院で、検査部門内のローテーションもあり、さまざまな検査領域を担当しました。当時は認知症という疾患に臨床検査技師は関わる機会はほとんどなかったですし、臨床検査業務をこなす毎日で、認知症から離れていました。

 入職2年半以上が経過し、検査業務がこなせるようになった頃、鳥取大学で教職員を公募していることを知りました。浦上先生からご連絡があり、認知症の早期発見や予防への熱い思いを伺う中で心が動き、大学の教職員への転職を決意したんです。今振り返ると、その時がキャリアの大きなターニングポイントだったと思います。

◆臨床検査の視点から研究

―ヒトの脳は未解明な部分が多く、認知症の病態解明の研究も発展途上だと思います。臨床検査技師として、どのような研究に取り組んでいるのでしょうか。

 例えば、頭頸部の血流の変化と、認知症の症状の相関を明らかにすることができれば、頭頸部のエコー検査を認知症の早期発見に活用できます。また、味覚や嗅覚の異常や脳波の測定を、認知症の早期発見につなげられないかを研究してきました。これらは、病院勤務時代に教えていただいた検査などからヒントを得て研究に生かそうと思いついたものです。

 臨床現場での実務経験があることで、臨床検査を活用した研究を行うことができています。研究に合わせて測定法を選択し、必要なデータをどのように測定すればいいかなどもある程度判断できます。そう考えると、3年という短い期間でしたが、病院の検査部門での実務経験を積んだことは大きな財産になっています。

―研究だけでなく、地域住民を対象にした認知症の予防対策にも携わっていますね。どのようなきっかけで関わることになったのですか。開発された認知症予防プログラムとは、どのようなものですか。

 2016年度から認知機能低下を予防するためのプログラムを開発するプロジェクト「とっとり方式認知症予防研究開発・普及事業」に携わる機会をいただきました。これは、鳥取県と日本財団の共同プロジェクトで、鳥取県内の多職種でプログラムを開発、検証した上で、一般への普及啓発を目指すものです。そのプロジェクトの検証研究において事務局を担当させていただきました。

 開発したプログラムを詳しく紹介しますと、1回2時間、運動50分と座学(4週間に1回)または休憩20分、知的活動50分で構成しています(図1)。2017~2018年度に鳥取県伯耆町の65歳以上の住民を対象として、このプログラムの実証研究を行いました。プログラム実施期間と介入しなかった期間(各6カ月)を比較したところ、プログラム実施期間に認知機能の改善効果が確認されました(図2)。身体機能でも、上肢筋力と下肢筋力、柔軟性が向上する可能性が示されました(図3)。

 このプロジェクトに携わって一番印象に残っているのは、行政担当者、医療・介護職種、地域の住民などさまざまな人と関わる機会を持てたことですね。当たり前ですが、専門や立場が異なれば見方や考え方も違います。臨床検査技師の私がそれまでは気が付かなかった視点や課題を教えていただきました。また、こうしたプロジェクトは一人ではできないものです。多職種がそれぞれ少しずつ努力を重ねることで、大きな成果につながることも強く実感しました。

図1:とっとり方式認知症予防プログラムの概要
図1:とっとり方式認知症予防プログラムの概要

図2:とっとり方式認知症予防プログラムの検証結果①
図2:とっとり方式認知症予防プログラムの検証結果①
図3:とっとり方式認知症予防プログラムの検証結果②
図3:とっとり方式認知症予防プログラムの検証結果②


◆認知症検査は変革の時

―認知症に携わる臨床検査技師は、まだ多くはありません。今後、ますます患者数が増えることが見込まれており、新たな検査法も出てくると思いますが、臨床検査技師は認知症領域で活躍できるのでしょうか。

 2023年12月から、アルツハイマー病に対する新薬投与の要否を判断する目的で、病因と考えられている脳内アミロイドβ蓄積を脳脊髄液から調べる検査が保険収載されました。最近は、血液検体で脳内アミロイドβ蓄積を予測する方法の研究が盛んに行われています。認知症の検査はまさに今、大きな変革期を迎えており、技術革新に伴い臨床検査技師が携わる機会は間違いなく増えていきます。

 認知症は加齢とともに発症リスクが高まります。病院に通院している患者の多くは高齢者ですので、病院で働いている臨床検査技師は認知症の発症リスクの高い方々に接していることになりますよね。

 また、糖尿病患者は認知症の発症リスクが高く、心房細動を原因とする脳梗塞や脳低灌流などが認知機能障害と関連する可能性も報告されています。認知症とその他の疾患の関係について、最新の情報を学んでおくことが重要です。

 認知症に関する幅広い知識を身に付けたいと思っている臨床検査技師のために、日本臨床衛生検査技師会が「認定認知症領域検査技師」制度を設けています。この資格は、認知症について学んでいることの証しになり、病院内で他職種にもアピールできるものだと思います。興味のある方にはぜひ、チャレンジしてほしいです。

―認知症研究に携わっている臨床検査技師として、ご自身の成功・失敗の経験を踏まえて、若手へのアドバイスをお願いします。

 研究の一環で、認知症患者に検査する機会がありますが、不適切な対応により検査を断られてしまったりすることもあります。認知症の患者それぞれに合わせた対応の仕方や声かけの工夫が必要であり、他職種の方に助けていただいたり、教えていただいたりすることが多くあります。大学教育でも授業内容が学生にきちんと伝わっているかどうか、説明の仕方などは常に工夫しています。相手に合わせた話し方や接し方などの「対応力」は常に磨いていかなければならない課題だと感じています。

 認知症の診療や予防活動に携わっている臨床検査技師は、それぞれの専門領域が基盤にあって、そこから認知症という新しい領域に飛び込んできた方が多い印象があります。行動力がある方が多く、一緒に活動していると勇気をもらえます。

 若手の臨床検査技師も、行動力を大切にしてほしいですね。「トライ&エラー(trial and error)」という言葉がありますが、行動してみて初めて分かることも多くあり、失敗しても必ず学びがあります。失敗を恐れずに行動するという意識を強く持ってほしい。行動すると、その先に明るい未来が開けてくると思います。




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