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〈第7回〉タスクシフト・シェア編


神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)

 

今回のキーワード

医療現場のタスク

看護師の特定行為研修制度とドクターズクラーク

臨床検査技師のタスク

 

 医療とは医師の活動とタスク分担の積み重ねです。第2次世界大戦までは診察だけで病名を決めるのが主流で、臨床検査も診断のための補助手段でした。それが戦後、米国医学の紹介によって大学病院を中心に急速に発展し、医師に求められる知識と技術の増大とともに、技術者に業務が移管され始めます。このようにさまざまな職種が法制化されていきました。


医療現場の行為を分けて考える


 こうした医療に関連するタスクの現状を整理すると、医行為、医業類似行為、診療補助行為、診療補助行為に当たらない行為などに分けることができます。医行為とは、医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼす恐れのある行為とされ、具体例としては診断、投薬、生理学検査などがあります。また、医業類似行為については、あん摩、指圧、はり、きゅう、柔道整復などが含まれています。


 そして、臨床検査技師に大きく関係する診療補助行為については、保健師助産師看護師法第37条に定められており、〈1〉診療機械の使用 〈2〉医薬品の授与 〈3〉医薬品についての指示 〈4〉その他医師または歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずる恐れのある行為―が該当し、医師または歯科医師の指示を受けて行うとされています。看護師は全ての診療補助行為ができるとなっている一方、臨床検査技師含めたその他のメディカルスタッフは、それぞれの専門領域にて診療補助行為ができるとされています。これは看護師の業務独占の一部を解除する形となっています。


 最後に、診療補助行為に当たらない行為は、検体検査、生命維持管理装置の保守点検、患者搬送、放射線検査の説明などが該当します。なお、検体検査は大正時代に医行為ではないという行政解釈がされて以来、資格で縛られるものにはなっていません。そのため、非資格者による検体検査実施が問題視されることがあり、臨床検査業界にとっては重要なテーマでもあります。


タスクシフト・シェアの影響要因


 今般の医師の働き方改革に伴うタスクシフト・シェアについては、〈1〉医療の質 〈2〉医師の労働時間短縮 〈3〉受ける側の労働時間 〈4〉患者のメリット 〈5〉資格付随の業務か 〈6〉技術隣接の業務か 〈7〉安全性の担保―などが検討されてきました。最終的に法令改正含め8つの行為が解禁され、効果があまり期待できないものや要件に合致しないもの等は見送りとなっています。


 このように現在、医療業界は絶賛タスクシフト・シェア推進中となっています。その中でも特に注目しておきたい取り組みの1つが看護師の特定行為研修制度で、これは事前指示の制度化とも言えます。研修を受けることで急性期から在宅医療まで、より自律的に動ける質の高い看護師を計画的に養成する仕組みとなっており、特定行為研修修了者を配置することで、医師の指示回数や平均勤務時間が有意に減少したという研究報告もあります。タスクシフト・シェアの一丁目一番地と言えるでしょう。


 もう1つは、ドクターズクラークと呼ばれる医師事務作業補助者です。これは医師の事務作業を代わりに行うことを想定した職種で、診療報酬制度で点数化され、人件費確保も見込めるため、経営的メリットにつながっています。これら2つのケースから、タスクシフト・シェアを確実に進めるためには、制度としての下支えや研修の仕組み、エビデンス、組織的インセンティブが重要であることが垣間見えます。


 一方で、タスクシフト・シェアが進まない理由として、医療者および医療機関の「意識」の問題があります。医療者個人の意識としては、日常業務が忙しくなり労働時間が増える可能性があること、一方で給与が増えない可能性など、個人的なインセンティブにつながりにくいという課題があります。医療機関の意識の問題としては、業務移管による患者からの不信感やその他のリスクの考慮、金銭的インセンティブ、人材確保の困難さなどがあり、こうした現実的な課題が解消されないと進みません。結局、タスクシフト・シェアが進むかどうかは、組織に大きく依存することが多く、生かす場がなければ机上の空論となりがちです。構造的に一筋縄ではいかない部分があるため、院内で円滑に進めるための運用上の方策共有が重要となっています。


臨床検査技師タスクのこれから


 臨床検査技師は、臨床検査領域においてその知識とスキルは他の医療職をしのぎます。その意味でも、診療補助行為の中に含まれる臨床検査関連の行為の網羅的な実施はもちろん、医行為の中における臨床検査関連の行為の実施もタスクの範疇になり得ます。一方で、タスクシフト・シェアの難しいところは、その主たる目的が医師の負担軽減となっている点であり、医療の安全を担保しつつ、効率的な提供が求められます。そして、医療は一連の流れとして行われるため、分業され過ぎると、逆に非効率になる可能性もはらんでいます。その意味でも、職業としての地位向上や業務拡大を掲げ過ぎると、本質的な社会ニーズを見失う可能性があることに注意が必要です。例えば、業務独占という言葉は、医療業界全体、患者ニーズという視点からすると、現在は逆行する可能性があるのも事実です。


日本版ラヒホイタヤの可能性は


 福祉大国とも言われるフィンランドでは、ラヒホイタヤと呼ばれる資格制度があり、これは、准看護師、歯科助手、保育士、リハビリ助手、救急救命士、ヘルパーなどが統合された、医療・介護・福祉を一気通貫した基礎資格です。当然ながらこの仕組みの構築には看護業界をはじめ強い反発があったのですが、人手不足がより深刻となり、社会保障費に圧迫され予算がない日本においては、大いに参考になるのではないでしょうか。各医療職の基礎を共通化し、医療機関の中でさまざまな行為ができるようにしていくことも、今後の日本が取り得る方法の1つかもしれません。これからは各職能団体の結束はもちろん、国のリーダーシップと国民の理解がますます重要となってきます。


(MTJ本紙 2024年3月1日号に掲載したものです)

 

神戸 翼

PROFILE 慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。

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