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〈第17回〉国の予算と骨太方針編

  • kona36
  • 4月30日
  • 読了時間: 5分

神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)

今回のキーワード

骨太の方針と診療報酬改定

国の政策と予算

医療系団体と国会議員の擁立

 新年明けましておめでとうございます。皆さま、今年はどんな目標を掲げましたでしょうか。私は今年が後厄でもう1年は辛抱の年です。極力引きこもってぬくぬく過ごせないかとひそかに企てているところです(笑)。さて本題でありますが、年の始まりは、政治政策の中枢である永田町や霞が関では、慌ただしく物事が動きます。それは国としての予算を審議する通常国会が1月から始まるためです。そのようなタイミングを踏まえて、2025年一発目は医療のルール作りの本丸、国の予算と骨太方針について取り上げたいと思います。

骨太方針は国として力を入れていくという宣言

 2001年の小泉純一郎内閣から、毎年6月ごろに骨太方針が掲げられるようになっています。これは正式名を「経済財政運営と改革の基本方針」と呼び、国としてどのような課題意識を持っていて、それを日本国として解決していくかを掲げた宣言と考えることができます。この骨太方針に各領域、各業界はキーワードを取り上げてもらうことに力を注ぎ、霞が関の各省庁官僚も同じ意識で、自分たちの分野で優先すべき事項をいかに盛り込むことができるかと水面下で動きます。

 例えば、われわれ医療畑の人間にとっては診療報酬改定の度に掲げられる「改定の基本方針」というものがありますが、この内容は骨太方針の内容と方向性はもちろん、文言自体も大いに参考にされています。厚生労働省が推し進める医療政策のうち優先度が高く重要な項目はほぼ全てが骨太方針に盛り込まれています。骨太方針は、首相を中心とした全閣僚が参加する閣議で決定されるため、国のトップ肝いり案件として実効性が高められるわけです(図)。

 骨太方針が作られるまでには、いくつかの工程があります。政府内の会議体での議論はもちろんですが、その中心的な役割を果たすのは与党である自民党の政務調査会です。この会議体にて各業界からの要望、関係省庁からの課題や現状データの共有が行われ、国会議員による議論を経て決議書などがまとめられます。そしてこれらは各省庁へ共有され、最終的に政府にて骨太方針の原案が作られます。このように政府と与党が一体となって骨太の内容を深めていく構造があり、日本臨床衛生検査技師会をはじめとした医療系団体としては、このような過程においていかに政策提言していけるかが重要で、医療系国会議員の必要性と役割が垣間見えます。

 国の予算という視点では、骨太方針を軸とした各事業の予算検討に加えて、税制要望など関係団体からの別の提言と議論も受けて検討が進んでいきます。日本においては政府と与党が一蓮托生の構造ですので、やはり予算の議論においても、どの項目を重要視するのかなどを働きかける与党国会議員の役割は重要となります。ちなみに、予算案を作り上げていく各省庁の政務三役として大臣、副大臣、大臣政務官という要職がありますが、一部例外を除き与党国会議員が就任するのが通例です。

 こうして、年末には予算案の与党審査が完了し、閣議決定を経て1月からの国会予算審議に至るわけです。国の予算決定過程を概観すると、医師会や看護協会、臨床検査技師会などの医療系団体が自民党参院議員を擁立したいとする意図を理解することができます。

医療のルール作りに興味を持つ

 医療者個人の視点で考えてみようと思います。日本の医療は、患者の直接負担はあるものの、その多くは公的保険でカバーされており、税金等を原資とした国の予算などで賄われています。通常のビジネスとは違い公的な仕組みが介入しないと成り立ちません。このような背景から日本における医療のルールは法律と制度であって、それらを作るルールメーカーは政治家となります。そうした意味でも、実は医療者は政治や政策とは切り離すことが難しい構造だと分かります。そして、ルール作りに資する政治家も本来はもっと医療者の身近な存在であるべきと言えるかもしれません。

 今般の賃金問題が良い例です。企業であれば自分たちで商品の価格を上げて売上を確保し、企業としての判断で給与を上げることができます。しかしながら医療においては、医療機関側では操作がしがたい価格設定の問題があり、これまでもなかなか賃上げが実現されてこなかったという背景があります。

 国や政治に対して無関心ではなく意思表示できる医療者がもっと増えると、また一つ違った世界が生まれてくるかもしれません。業界をいかに盛り上げて持続させるか、わくわくする臨床検査の未来をつくるかは個々の意識が重要で、その意識を駆り立てるような雰囲気づくりにおいて技師会をはじめとした医療系団体の役割は大きいです。

 総じて、検査技師個人としては、日本の医療の近い未来の行く末、そして厚労省の動きを把握するために、年に1度、数時間程度で読める骨太方針の社会保障関連の記載に目を通すことは、悪くない投資のように感じています。現在の医療の立ち位置と少し先の医療の未来を知って、一人一人がこれからの臨床検査の在り方を考えてみるという社会は、何かわくわくする感じもします。少しばかり敬遠しがちな政治に関連する話でしたが、改めて医療と政治、そして医療と政策について考えてみてはいかがでしょうか。新しい気付きがあるかもしれません。

(MTJ本紙 2025年1月1日号に掲載したものです)

神戸 翼

PROFILE 慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。

2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

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