top of page

〈レポート〉パネル検査の事前説明を検査技師が担当 慶應義塾大学病院 腫瘍センター


 慶應義塾大学病院腫瘍センター(東京都新宿区)が開設している「がん遺伝子外来」では、がん遺伝子パネル検査の患者への事前説明を臨床検査技師が担当している。がんゲノム医療コーディネーター(CGMC)の資格を持つ臨床検査技師が、検査の目的や意義の説明を専門的な立場で行い、検査に対する患者の疑問や不安の解消につなげている。
 
慶應義塾大学病院
 慶應義塾大学病院腫瘍センターのがんゲノム医療ユニットでは2017年にがん遺伝子外来を開設。2018年2月に厚生労働省からがんゲノム医療中核拠点病院として承認を得ている。現在同センターでは、保険診療と自由診療による遺伝子パネル検査と、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)による遺伝子パネル検査を実施。保険適用となる検査は5種類、自由診療の検査は4種類を提供している。

 同センターの臨床検査技師の業務は、検体の準備と次世代シーケンサー(NGS)によるシーケンスの実施、エキスパートパネルへの参画が主体だが、2017年の開設以来、週1回のがん遺伝子外来での事前説明も担当している。
山田氏

 臨床検査技師による検査説明を始めたのは、2017年に厚労省がCGMCの養成を開始したことが経緯。CGMCにはパネル検査の患者への事前説明のほか、ゲノム検査での2次的所見が見つかる可能性も説明することが求められている。同センターでは、看護師や薬剤師もCGMC資格を持つが、それぞれの専門分野の知識を生かすため、検査技師が事前説明を担うことになった(図1)。検査技師は病理検体の取り扱いにも慣れており、検体の品質評価などを担うことが必要と判断されたことも大きい。同センターの山田寛氏がCGMC資格を取得し、外来での検査の事前説明が始まった。

◆分かりやすい説明を実践

 がん遺伝子外来での事前説明では、がん遺伝子パネル検査の目的のほか、検査の利点と限界、検査費用、検査後の治療などを図やイラストを使ったスライド資料を使い30分程度かけて話す(図2)。検体の状態などを踏まえた検査の成功率、遺伝性腫瘍などが明らかになる可能性も説明する。


 山田氏は臨床検査技師が事前説明を担うメリットについて「検査手順、必要な検体の種類や品質、複数ある遺伝子パネル検査の特徴などを理解している点が大きい。これらの知識を基に患者の疑問に答えたり、検査や診療を受ける上での助言ができたりする」と話す。

 また、最適な検査法を選ぶための情報提供が可能になる点も挙げ、「適切な検査を選択したり、検査の成否を予測したりでき、医師の判断の支援につながる」と、治療上の利点も大きくなることを指摘した。

 一方で、遺伝子パネル検査に寄せる患者や家族の期待と、検査後に治療に行き着く可能性のギャップにも留意していると話す。遺伝子パネル検査の普及で、患者に応じた治療の最適化が可能になった。ただ、治療手段が確立されていなかったり、保険診療に該当せず自由診療での対応となったり、実際に治療に至るケースが必ずしも多くない点を理解してもらうことが必要になるという。

 山田氏は、検査を受けたいという患者や家族の希望を踏まえた上で、「検査後の治療の可能性などを丁寧に説明し、納得してもらうことに注力している」と話す。

 検査技師による事前説明は、自由診療での対応を中心に年間30~40件程度になる。山田氏は「自由診療で受診される患者は検査だけでなく治療にも積極的。現段階で検査に基づく治療選択肢の有無にかかわらず、検査を受ける患者が増えている印象がある」と話す。

 ただ、自由診療による治療はハードルも高い。経済的理由などで治療を諦めざるを得ない患者には、臨床研究や治験の情報、未承認薬などを保険外併用療養とできる患者申出療養制度を紹介し、医師への相談も勧めたりしている。

 診療報酬などの情報も収集、適用拡大が進むコンパニオン診断薬(CDx)の情報を積極的に取得するようにしているとも話す。

◆2人態勢への移行を計画

 遺伝子パネル検査の検査技師による事前説明が始まって7年が経過。患者アンケートでは検査説明が分かりやすかったとの評価をもらったと振り返る。「主治医から説明された時は漠然としか理解できなかったが、検査技師の説明できちんと理解できた」などの回答があったという。一方で、理解できなかったとの指摘もあったため、少しずつ平易な表現に変えるなどの取り組みも進めている。

 これまで事前説明は山田氏が1人で担当してきたが、2人態勢への移行準備を進めている。山田氏が指導を続け、これまで蓄積してきたノウハウなどを伝達している。教育は継続中だが、定型的な業務を身に付けてもらった上で、「患者の接遇で自分のスタイルも確立してもらえればいい」と話す。

◆患者ケアにつながる取り組み進めたい

西原氏
 腫瘍センターの西原広史教授は、日本では遺伝子を調べることへの国民的な理解が浸透しておらず、その必要性やメリットと同時に、遺伝性疾患が判明したり、生命保険に加入できなくなるのではないかといった不安や疑問を解消する仕組みが必要だと指摘する。その上で、「がんゲノム医療は、多職種連携が必要不可欠。専門職からそれぞれのパートでの事前説明や検査後のケアの仕組み構築が求められる。患者の不安解消のため、検査の事前説明や遺伝カウンセリング体制を適切に整備し、人材育成も必要だ」との認識も示す。

 特に、人材育成では「がんゲノム医療中核拠点病院の責務として、連携医療機関の多職種を対象に教育コンテンツのオンライン配信を年10回行うなど、がんゲノム医療の態勢整備と人材育成に力を入れている」としている。

 西原氏は、遺伝子パネル検査の結果に基づき、遺伝子異常に基づく治療が推奨された患者割合は44.5%に上るが、実際に治療を受けた患者の割合は9.4%にとどまるとの厚生労働省の報告を例示。「検査への過度な期待があると、検査結果次第では患者が落胆し、その後の緩和ケアにも大きな影響が出る。検査の事前説明では、そうしたデータを正確に患者に伝えることが重要だ」と、検査の事前説明の意義を強調する。

 その上で「検査技師や遺伝カウンセラーにもパネル検査の結果を議論するエキスパートパネルに積極的に参加してもらい、がんゲノム医療の最新情報を入手するように伝えている」と話す。

 山田氏は患者サービスの向上も目標に掲げる。「患者ケアにつながる取り組みを進めたい。患者の思いを傾聴する技術を磨き、最終的に検査技師に話を聞けてよかったと思ってもらえるようにしたい」と意欲を示している。

(MTJ本紙 2024年12月1日号に掲載したものです)
2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

その他の最新記事

bottom of page