
患者の付き添いなどで来院した人たちに気軽に健康チェックをしてもらおうと、呉共済病院(広島県呉市、397床)の検査部が2023年11月に自費の検体検査サービスを開始した。「市民のためになることを」と検査部が企画し、コロナ禍を経て5年越しで実現にこぎ着けた。開始から1年が経過し、予防・未病のための市民サービスが根付きつつある。

病院1階にあるコンビニでチケットを購入し、3階の検査室で受付後、採血を受け、必要なら尿検体を提出する。当日中に検査結果を受け取りに来た人には臨床検査技師が結果の見方を説明し、後日であれば結果をメールで届ける。
サービスの名称は「ほっとけんさ」。「放っておけない」の広島弁「ほっとけん」と「検査」をかけた造語だ。若手スタッフの一人が発案した。仕事や家事、育児、介護など「頑張るあなたをほっとけん!」というホットな気持ちを込めた―。企画の中心になった検査部の松本淳子係長は説明する。

◆40~50代がターゲット
呉市の特定健診受診率は30%に届かず、3割超の広島県全体や全国平均に及ばない。「ほっとけんさ」は、「時間がない」「健康に自信がある」など、自分のことを後回しにしがちな人たち向けに企画した。患者のお見舞いや家族の付き添いのついでに利用するケースを想定し、働き盛りで健診の時間が取れないような40~50代を主要なターゲットに据えた。医療機関を受診中の人は、健康上の不安があればかかりつけ医に相談してもらうほうがいいと考え、対象外にした。
コンセプトは、「所要時間15分」「予約なし」「受けたい検査のみ受けられる」「安価」の4つ。外来採血とは別ルートにして採血待ちをなくし、さらに検査部の担当者4人を決めた。検査は匿名で受けられる。
検査メニューは用途に応じて選べるよう、「今の健康管理を調べる検査」の16のセットと、「将来のリスクを調べる検査」の4つのセットの計20セットを用意した。「今の健康管理」は、中性脂肪や血糖などの19項目を検査する「健康が気になる方」向けなどがあり、価格は保険点数を基に300~4100円に設定した。

「リスクを調べる検査」は、アミノインデックスリスクスクリーニングやMCI(軽度認知障害)スクリーニングなど。外部の検査を利用するため、価格は1万3000~2万200円と少し高めだが、必要経費が賄える程度に抑えたという。
保険診療ではなく医師の診察もないが、院内の案内を見た人らが自分の健康管理のためにと利用し、利用実績は今年11月までの1年1カ月で計59件になった。20代から70代まで幅広い年代が利用した。利用は午前中が多いという。
一番人気は、「健康が気になる方」向けのセット(2500円)。血糖とHbA1cの2項目の「糖尿病が気になる方」(700円)、脂質4項目の「コレステロールが気になる方」(700円)のセットもよく選ばれている。
◆うちでもできる
これならうちでもできるかもしれない―。大学病院の先行例を日本未病学会で聞き付けた若手スタッフからの報告がきっかけになった。「何か市民へのサービスを」と以前から構想していたことと結び付き、松本氏が具体的な企画にまとめ上げた。予防や未病対策の重要性を感じていた院内の臨床医らの賛同を得て、病院全体の取り組みになった。事務部門は、先行する大学病院に視察にも出かけた。
院内に多職種の10人程度でワーキンググループ(WG)を立ち上げ、チケットをどこで販売するか、検査メニューはどうするかなどを話し合い、地元医師会や自治体の理解を得ながら準備を進めた。
