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〈レポート〉#14 検体検査の自費サービス、市民に提供 呉共済病院


 患者の付き添いなどで来院した人たちに気軽に健康チェックをしてもらおうと、呉共済病院(広島県呉市、397床)の検査部が2023年11月に自費の検体検査サービスを開始した。「市民のためになることを」と検査部が企画し、コロナ禍を経て5年越しで実現にこぎ着けた。開始から1年が経過し、予防・未病のための市民サービスが根付きつつある。
 
呉共済病院
呉共済病院
 病院1階にあるコンビニでチケットを購入し、3階の検査室で受付後、採血を受け、必要なら尿検体を提出する。当日中に検査結果を受け取りに来た人には臨床検査技師が結果の見方を説明し、後日であれば結果をメールで届ける。

 サービスの名称は「ほっとけんさ」。「放っておけない」の広島弁「ほっとけん」と「検査」をかけた造語だ。若手スタッフの一人が発案した。仕事や家事、育児、介護など「頑張るあなたをほっとけん!」というホットな気持ちを込めた―。企画の中心になった検査部の松本淳子係長は説明する。

院内のコンビニでチケットを購入する
院内のコンビニでチケットを購入する
40~50代がターゲット

 呉市の特定健診受診率は30%に届かず、3割超の広島県全体や全国平均に及ばない。「ほっとけんさ」は、「時間がない」「健康に自信がある」など、自分のことを後回しにしがちな人たち向けに企画した。患者のお見舞いや家族の付き添いのついでに利用するケースを想定し、働き盛りで健診の時間が取れないような40~50代を主要なターゲットに据えた。医療機関を受診中の人は、健康上の不安があればかかりつけ医に相談してもらうほうがいいと考え、対象外にした。

 コンセプトは、「所要時間15分」「予約なし」「受けたい検査のみ受けられる」「安価」の4つ。外来採血とは別ルートにして採血待ちをなくし、さらに検査部の担当者4人を決めた。検査は匿名で受けられる。

 検査メニューは用途に応じて選べるよう、「今の健康管理を調べる検査」の16のセットと、「将来のリスクを調べる検査」の4つのセットの計20セットを用意した。「今の健康管理」は、中性脂肪や血糖などの19項目を検査する「健康が気になる方」向けなどがあり、価格は保険点数を基に300~4100円に設定した。

ほっとけんさカードの売り場
ほっとけんさカードの売り場
 「リスクを調べる検査」は、アミノインデックスリスクスクリーニングやMCI(軽度認知障害)スクリーニングなど。外部の検査を利用するため、価格は1万3000~2万200円と少し高めだが、必要経費が賄える程度に抑えたという。

 保険診療ではなく医師の診察もないが、院内の案内を見た人らが自分の健康管理のためにと利用し、利用実績は今年11月までの1年1カ月で計59件になった。20代から70代まで幅広い年代が利用した。利用は午前中が多いという。

 一番人気は、「健康が気になる方」向けのセット(2500円)。血糖とHbA1cの2項目の「糖尿病が気になる方」(700円)、脂質4項目の「コレステロールが気になる方」(700円)のセットもよく選ばれている。

うちでもできる

 これならうちでもできるかもしれない―。大学病院の先行例を日本未病学会で聞き付けた若手スタッフからの報告がきっかけになった。「何か市民へのサービスを」と以前から構想していたことと結び付き、松本氏が具体的な企画にまとめ上げた。予防や未病対策の重要性を感じていた院内の臨床医らの賛同を得て、病院全体の取り組みになった。事務部門は、先行する大学病院に視察にも出かけた。

 院内に多職種の10人程度でワーキンググループ(WG)を立ち上げ、チケットをどこで販売するか、検査メニューはどうするかなどを話し合い、地元医師会や自治体の理解を得ながら準備を進めた。

検査部のみなさん(前列左から)能美伸太郎技師長、藤原謙太部長、松本係長。(2列目左)森實係長
検査部のみなさん(前列左から)能美伸太郎技師長、藤原謙太部長、松本係長。(2列目左)森實係長

 ところが、いよいよという矢先に新型コロナウイルス感染症が流行し、計画が頓挫。一昨年9月、事務長から再開を打診されるまでの間、休止状態になった。再開の病院方針を受けて、検査部スタッフが全員参加の手作りで準備し、それから2カ月で開始にこぎ着けた。

 申込書やパンフレットの作成、ロゴマークの考案などの作業を検査部のほぼ全員に割り振り、締め切りを設けて作業を分担した。イラストの得意なスタッフがロゴマークやイラストを描き、受付や採血スペースの設置は力のあるスタッフがやるなど、それぞれが役割を担った。松本氏は「部門を超えて一つの作業をしたことは検査部の活性化になった」と話す。

 開始から1年が経過し、定期的に利用するリピーターができ、付き添いのついでに利用した患者の家族もいる。利用者からは「今後も続けてほしい」「ありがたいサービス」などの声が上がる。「健康が気になりながらも病院を受診するまでもないような人たちが少しずつ来てくれている」と松本氏。市民の健康啓発という目的通りの展開となった。

 WGに参加しサービスの立ち上げに関わった生理検査担当の森實晋平係長は、病院のキャッチコピー「まもりたい、あなたの明日と地域の医療。」に一致したサービスで、病院の理念に沿って地域医療に貢献できていると話す。

「健康意識の浸透」目指す

 検査部の取り組みに派手さはなく、外向けに積極的にアピールすることもない。松本氏は、「継続して続けていくことが大事。少しずつ広がっていけばいい」と控えめに語る。ルーチン検査の傍ら無理なくサービスを続け、長く続けていくうちに自然と市民の間に予防や未病の考えが浸透していく。そんな姿を目指しているのだと話す。

 さまざまなウエアラブルデバイスが開発され、検査がより身近になるヘルスケア時代の到来が見込まれている。そんな中、検査の品質を確保しつつ、市民の健康や予防意識を喚起する検査部の取り組みが続いている。


■ 検査部スタッフ全員で準備した(提供写真)


(MTJ本紙 2025年2月1日号に掲載したものです)
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