〈レポート〉#16 企画委員会が変えた組織文化 東北労災病院
- kona36
- 4月7日
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東北労災病院(仙台市、548床)の中央検査部で、2020年から中堅6人による部内の企画委員会が活動している。日常業務の中でスタッフや委員会委員が感じた疑問や提案を元に改善策を検討し、日当直業務マニュアルや学会発表を支援する仕組みなどを整備してきた。スタッフが気軽に相談・意見できる場となり、なんでも話せる心理的安心感のある職場の雰囲気が広がってきた。

中央検査部の臨床検査技師は33人。大きく検体、生理、微生物、病理の4部門に分かれ、それぞれの部門で横断的に検査業務を受け持つ。中途採用者が多いことが特徴の一つだという。
前職でキャリアを重ね活躍した人ほど、転職後、業務のやり方や考え方に違いを感じることが少なくない。技師長職に当たる中央検査部長の植木進一氏は、旧来のやり方に固執することなく、若手や中途採用者らが感じる違和感や意見を前向きに受け止めるべきだと指摘する。「新しい発想を積極的に取り入れることで、もっと検査室が良くなる」と考えるからだという。「うちの基本的な方針は『まずやってみよう』だ」。
これまでも、部門ごとの検査室の縦割りをなくすことに取り組んできた。忙しい時間帯や休暇取得時などにほかの担当者がサポートに入れるよう検体検査、生理検査それぞれの運用を順次、変えた。現在、検体検査は8人、生理検査13人がそれぞれの部門で横断的に業務に当たる。さらに、病理と細菌検査の部門が互いにバックアップできるよう連携の体制づくりにも踏み出している。

◆全職員との面談がきっかけ
企画委員会の前身である育成委員会は2020年1月、中堅からの意見を受け止める形で発足した。初代の委員長を務めた岩橋隆之氏(主任臨床検査技師)は、別の労災病院から着任したばかりの当時の検査部長がスタッフ全員と面談したことがきっかけ、と振り返る。岩橋氏自身、数ページにわたる意見を伝えた。
部門方針を実行するにはベテランから若手までしっかりと浸透させ、皆が同じ方向を向く必要がある。また、部門横断の課題解決には、担当外であっても積極的に関わろうとする姿勢が欠かせない。当時30代半ばだった岩橋氏は、そんな思いからいくつもの改善提案を検査部長に話したという。
面談を経て元検査部長は育成委員会の新設を決め、トップに岩橋氏を指名した。ほか5人の委員は部内全4部門から生きのいい30代をそろえた。
岩橋氏らがまず取り組んだのは規約の整備。委員会の目的や委員構成などをまとめ上げた。
規約はその第1条に「継続的かつ一貫した計画性の下で人材育成を行う」と明記し、「責任を持って教育、育成に携わる」「特定の部署、業務に執着せず、俯瞰的な視野を持ち活動する」など5つの行動規範を盛り込んだ。委員は検査部長が任命し、委員会で審議した結果を議事録で報告する。部長の決裁が得られれば実施に移すという手順を決めた。
委員会はまず、日当直者の教育に照準を合わせる。以前は、決められたマニュアルがなく、部門ごとに「行き当たりばったり」で新人に当直業務を教えた。この状況を改善するため日当直者用の業務指導計画書と業務マニュアルを作成した。計画書に沿い、新卒者であれば3カ月かけて各部門をローテートし日当直業務を学ぶ。
業務指導計画書は、生化学や輸血、細菌、生理などの7つの部門ごとに、計200項目以上の確認項目をまとめたチェックリスト。それぞれ「測定できる」「理解している」と表現し、育成のゴールを示した。日当直業務マニュアルは、「輸血の依頼確認」や「血液製剤と試薬保冷庫の温度確認・記録」など、時間帯ごとにやるべきことを具体的に列記した。
◆学会発表を支援
2021年4月、育成委員会は企画委員会へと名称を変更し、従来からの人材育成に加え「業務改善につながる企画立案」も担うようになった。そこで行った一つが学会発表の支援。毎年度末に「検査部内学術集会」を開くようになった。

特定の数人しか学会発表しない状況を改め、500床規模の地域中核病院の検査室として新たな知見を積極的に発信していく。そのために部内学術集会を開き、予行演習の場をつくる。初期メンバーの一人で2代目の委員長を務めた赤坂和紀氏(主任臨床検査技師)は開催の狙いをこう話す。「すでに報告されている事例や小さな工夫でも構わない。とにかく発表のきっかけにすることが狙いだ」。
全4部門がそれぞれ1題以上の演題を持ち寄り、学会の一般演題形式で実際に発表する。座長を置き抄録も作成する。その後、各部門の主任が話し合い、学会発表にふさわしい演題を宮城県医学検査学会や日本臨床衛生検査技師会北日本支部学会に登録する。初回の2022年度は県学会の2題、2023年度は支部学会の2題が部内学術集会からの発表となった。
