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〈第3回〉AIの得意・不得意、AIは何に使えるの? AIリテラシー編(3)


野坂 大喜(弘前大学大学院保健学研究科/医学部保健学科、弘前大学情報連携統括本部情報基盤センター 兼任)

 
キーワード
エスカレーション
意思決定支援
スマートヘルス
 

 AIの登場によりデータ駆動型社会へと大きく変わりつつあることを述べてきました。しかし、収集した大量のデータを基にヒトと同様の思考や判断をさせる技術である以上、AIにも得意と不得意があります。今回は、検査技師の具体的なAI利用イメージを示します。


経験の浅い検査技師をサポート

 「エスカレーション」という言葉をご存じでしょうか。エスカレーションとは「段階的な上位へのアプローチ」という意味であり、業務内で自身では責任を負うことができないトラブルやインシデントについて、上司の判断を仰ぐあるいは引き継ぐことを指すビジネス用語です。


 検査室を例にすれば、「再検が必要か?」など経験の浅い検査技師が判断に迷った際に、経験を積んだ検査技師に判断を仰ぐといったイメージです。さて最近、私たちの日常生活で困り事が起きた際のお問い合わせ先が「チャット」になっていることはありませんか? このやりとりを代行しているのがAIです。AIがいくつかの質問を提示し、得た回答から適切な対処法を導き出しています。困り事はいつ起きるか分からないため、AIがヒトに代わって24時間対応することで、経験やスキルに左右されず判断を示すことができ、効率化が可能になります。


 検査室に当てはめてみましょう。経験の浅い検査技師にとって、オンコールや宿日直は、いつ何が起きるか想定できないがゆえに不安ですが、深夜に何でもかんでも指示を仰ぐわけにはいきません。しかし、AIであれば過去のデータを基に最適な判断を示すことができ、誤った判断によるインシデントを防ぐことができます。そして、AIが最適解を導き出せない場合にのみ、経験を積んだ検査技師に判断を仰げばよいこととなります。


 AIは大量のデータを分析し、複雑なパターンや傾向を検出する優れた能力を持っていますので、問題の早期発見や原因の特定ができ、問題解決の迅速かつ効率的な手段を提供します。エスカレーションとAIの組み合わせは、経験の浅い検査技師のサポートには有効な手段となり得ます。


◆AIが最も得意な意思決定支援

 意思決定支援とは、複雑な情報環境下で瞬時に的確な意思決定を行うため、データや情報を分析し、洞察を提供することを指します。われわれの身の回りでは、株の取引や銀行からの融資などでAIに可否の判断を任せるといった活用がなされています。


 では、検査室ではどうでしょうか? AIが検体検査に組み込まれることで、膨大な患者データを迅速に解析し、リアルタイムに異常値を検出する能力が向上します。また画像診断においては、AIが超音波、X線、内視鏡などの検査過程で最適な手技を示し、即座に異常の可能性を知らせることができます。


 臨床検査でのAIによる意思決定支援は、現時点で最もAIが得意とする分野であり、検査技師にとってはより的確な判断が、また医師や患者にとっては早期の診断と適切な治療が可能となります。一部の画像検査においては意思決定支援を行うAI医療機器の導入段階に達しており、今後は臨床検査データを最大限活用することをうたった多くのAI検査機器の登場が見込まれています。


◆日常生活と臨床検査が融合

 ここまでは検査室でのAI利用について述べてきましたが、スマートヘルスの登場によって日常生活と臨床検査が融合していくことが想定されます。スマートヘルスとは、ITやデジタルデバイスを活用して、健康管理や医療を効果的かつ効率的に行うためのアプローチを指します。


 近年、臨床検査ではPOCT(Point of Care Testing)による在宅医療への対応が始まっています。その一方で、新型コロナウイルスの流行により患者自身が行うPOCTの活用も広がりつつあります。POCTによるセルフメディケーションと病院・在宅における医療行為は大きく二分されていますが、分析精度こそ違え、有用な検査データであることに変わりはありません。


 最近は、生体センシング技術の向上とAI技術との融合により、スマートウオッチ、フィットネストラッカーなどのウエアラブルデバイスで、心拍数、心電図、睡眠などのデータを24時間モニタリング可能となっています。


 日常生活で若干精度が劣る検査データが収集され、AIのアシストによって受診が促され、検査技師は検査室で精度の高い検査データを収集し、この2つのデータを統合して検査データは切れ間なく収集されていく。そして、そのデータ判断もまたAIがアシストする。統合された検査データの解析を検査技師は担っていくことになるでしょう(図)。スマートヘルスとAIが融合することで、健康管理は革命的な変化を遂げ、予防医学での検査技師の役割はより重要になると考えられます。


図:スマートヘルス時代の臨床検査技師の業務イメージ(生成AIを用いて著者が作成)
 

※次回(4月25日木曜日配信予定)のAI構築編(1)では、「オープンデータ、データの公平性、データクレンジング」などを解説する予定です。

 

野坂 大喜

PROFILE 大学病院勤務を経て現職。医用工学・情報科学を専門とし、病理画像診断システムの開発に携わる。大学発ベンチャー取締役の企業経験も有し、現在は医療AI技術や医療VRの研究を進めると共に、AI社会における言語技術教育に取り組んでいる。


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