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〈第13回〉生理検査分野における展開③ 臨床検査室におけるAI利用(6)


野坂 大喜(弘前大学大学院保健学研究科/医学部保健学科、弘前大学情報連携統括本部情報基盤センター 兼任)

 
キーワード
生体センシング
画像解析支援
操作支援AI
 
 前回は、超音波画像診断を向上させるために利用されているAIアーキテクチャーの一つであるU-Net、またU-Netを利用して超音波画像計測や評価を自動化しようとする取り組みについて解説してきました。ただ、超音波検査領域でのAI利用は、画像解析の自動化からさらなる進化を遂げようとしています。今回は引き続き、超音波検査におけるAI技術の動向と利用について紹介したいと思います。

◆超音波プローブ操作は誰が行う? 操作支援AIの登場

 超音波検査では、超音波プローブの操作が不適切だったために「きれいな画像を得られない」「診断に必要十分な画像が得られていなかった」という経験が皆さんあるかと思います。検査技師の超音波プローブ操作が患者の診断を左右しますので、この課題に対してAI技術による解決の試みが注目されています。

 キャプチャーされた超音波画像をAIが分析し、方向、角度、深さなど超音波プローブの位置や調整に関する最適化を検査技師に提案するリアルタイムガイダンスの研究です()。米国ではCaption Health社が超音波プローブの位置決めに関する視覚的なヒントとガイダンスを提供するAIシステムを研究開発しており、すでに一部の検査領域でFDA(食品医薬品局)の承認を得た操作支援AI技術が実用化されています。この技術によって、検査実施者の経験値の差を補い、均質な撮像が可能となります。また、検査技師の教育機関で学生指導に利用することで、効果的・効率的な技術習得も可能となるでしょう。Caption Health社が開発した操作支援AI技術は、GEヘルスケア・ジャパン社の超音波診断装置への搭載が始まっています。

操作者へのAIガイダンス付き超音波検査装置のイメージ
図:操作者へのAIガイダンス付き超音波検査装置のイメージ
 さらに近年は、操作支援AI技術をさらに進化させ、ロボット技術と融合する研究開発も進んでいます。ロボットアームによって超音波プローブ操作を自動化することが可能になれば、患者の近くに専門家がいなくても高品質な診断画像を取得でき、在宅医療や遠隔医療などさらに広い診療領域への応用化が期待されます。

◆AIによる超音波プローブ操作や画像判定自動化後の行方は?

 超音波画像解析AI技術やプローブ操作支援AI技術が研究開発段階から臨床応用段階に移ったことで、臨床検査技師の皆さんは「あんなに苦労して専門資格を取得したのに…」と思う方もいらっしゃると思います。ただ、AI技術の利点は明らかですが課題も残っています。大きな問題の一つは、AIモデルを適切に運用時検証する必要があることです。特定の患者データセットでトレーニングされたAIシステムは、全ての患者に対して万能に機能しない可能性があり、診断結果も偏りが生じる可能性があります。

 例えば、臨床化学の日常検査で利用される自動分析装置は、新しい機器の導入時に系統誤差やランダム誤差、旧機種との相関性などを評価します。日常検査の精度管理を絶え間なく行うことで、データの品質を保証しています。同様に、AI技術による自動化が進んだとしても、臨床現場で使用する前にAIシステムを検証することが不要になるわけではありません。むしろ、検査技師による検証や評価が重要です。検査技師がAI搭載型超音波検査装置に慣れ、AI によって生成された画像判定結果や操作アプローチを解釈する方法を習得する必要があります。AI技術の進展は、むしろ検査技師の判定スキルや診断スキル、操作スキルを大きく向上させ、専門資格の方向性も変革を迎えると言えるのかもしれません。

 今回紹介した超音波検査におけるAI技術も検査効率と精度を向上させ、検査実施者間の技術の平準化につながり、早期診断に寄与するものと考えられます。しかし、AI技術の進展により「誰もが簡単に診断できる」技術になったとしても、最終的な検査結果判定や診断に、検査実施者の知識や経験が必要になることに変わりはないです。

 超音波検査は、心電図検査と比べると画像で可視化されている点で検査技師の知識や経験をAI技術と合わせやすく、日常の検査業務に生かしやすいかもしれません。超音波検査は特にAI技術の進展が著しく、画期的な画像解析技術や支援技術が登場していますが、これはさらに広く検査を行える環境が整ってきたと言うこともできます。検査技師の皆さんが担う役割は、むしろ拡大するのではないかと思われます。

 
※次回(2月27日木曜日配信予定)の検査室のAI利用~検査・診断技術の新展開1~では、「音声解析AIモデル、糖尿病診断AI」などを解説する予定です。
 

野坂 大喜

PROFILE 大学病院勤務を経て現職。医用工学・情報科学を専門とし、病理画像診断システムの開発に携わる。大学発ベンチャー取締役の企業経験も有し、現在は医療AI技術や医療VRの研究を進めると共に、AI社会における言語技術教育に取り組んでいる。


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