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〈第1回〉人口構造の変化編


神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)


 国が進める医療制度、政策の動向が検査室、臨床検査技師の日常業務にどのような影響を与えるかを知ることは、未来を担う検査技師には不可欠な意識改革の一つであるように思えます。新連載では、検査技師であり、医療政策や病院経営、医療ITなどの専門家としての顔も併せ持つ神戸翼氏を執筆者に迎え、検査室からは少し遠くに見えがちなテーマについて、分かりやすいデータと臨床検査をひも付けながら検査技師目線で解説していただきます。検査技師一人一人が検査室外で起こっている環境変化に目を向け、自らの存在意義を考え、将来の可能性に向き合うきっかけになればと思っています。(MTJ編集部)

 

   今回のキーワード

  3つの人口区分の変化

  給与に直結する診療報酬

  地域医療構想と医療人材需給

 

1年間で約75万人減の少子高齢化社会


 日本の人口は2010年ごろをピークに年々減少し、直近2021年からの1年間で約75万人もの人口が減少しています。この規模は福井県の人口規模に匹敵します。このような数値を聞くと非常に大きな変化が起きていることが理解でき、データの重要性に気付きます。下の図は1920年から2045年までの日本の人口変化を表したものですが、国内のさまざまな制度設計や新規ビジネスはこのような人口データを基に検討が行われています。そして、その中でも特に注目すべきは3つの人口区分です。



 年少人口とはいわゆる14歳以下の人口を指し、これから高等教育を受け世の中で活躍していく世代を表しています。その人口は既に1955年ごろをピークに減少の一途をたどっています。そして、団塊ジュニア世代が65歳となる2040年と2020年の人口比較では、約361万人減(76.0%)となり、いわゆる少子化の問題をありありと感じることができます。それと対比して注目されるのが高齢者人口ですが、これは65歳以上の人口を指し、この世代が医療のボリュームゾーンとなります。2040年と2020年の比較で約326万人増(109.0%)と、高齢化の問題はより深刻になりそうです。最後に、生産年齢人口である15~64歳人口は、1995年ごろをピークに減少し、2040年と2020年の比較では、約1295万人減(77.7%)となります。全産業的かつ全国的に働き手をいかに確保するか、DXや外国人雇用、働き方改革の必要性が見えてきます。


人口構造の変化が医療費に大きく影響


 「何事も中庸が大事」とは誰が言った言葉でしょうか。医療費の問題においても、「入り」(収入)と「出」(支出)が均衡すれば問題は起きないのだと思いますが、高齢者が増え、働き世代が減ることで、現在はこのバランスが大きく崩れています。そして、今後はこのバランスがさらに崩れると予想され、国は制度を維持すべく「入り」と「出」の視点から試行錯誤を重ねています。


 「入り」とは、収入となる予算を増やそうとする流れですが、少子化対策(お金を払える世代を増やす)や消費税などの税率アップ(全世代や企業からお金を集める)などが挙げられます。そのほか、純粋な患者負担を増やすような制度設計も考えられます。このようにして、お金を集めてくる策が一つです。そしてもう一つが「出」である医療の支出を減らす、いわゆる「抑制策」となります。これには診療報酬改定が主に用いられています。診療報酬とは医療提供に対する対価で、いわゆる国が定める価格表です。つまりは、医療機関の経営や医療従事者の給与に直結するものとなります。この診療報酬は2年ごとに改定が行われ、そのたび、医療費の伸びをどのくらいまで抑えることができるかが問われています。小泉政権下を除き、医療の予算が増えるいわゆる「プラス改定」が続いていますが、バランスが崩れている状態では、いずれはマイナス改定となる恐れがあります。継続的な医療従事者の賃上げには、全医療業界として大きな働きかけが重要になりそうです。


2045年、未来の医療と臨床検査に向けて


 2045年における東京都の高齢者人口は129.9%と増加、生産年齢人口は89.3%と減少する一方で、秋田県では高齢者人口は83.2%、生産年齢人口は51.0%と減少します。このように「地域」によって全く異なる人口構造の変化があり、これは医療のニーズに加えて、そこで働く医療人材の需給にも大きく影響します。現在の医療政策において重要な施策の一つに「地域医療構想」という言葉がありますが、これはオールジャパンの議論だけでは対応できず、「地域」を主軸に「地域」の人口等のデータを基に医療提供体制を考えていくことを意味しています。2045年がどのような世界となっているか、人口構造の変化を読み解き、未来の臨床検査室や臨床検査技師の働き方を考えていくことが今、求められています。


(MTJ本紙 2023年9月1日号に掲載したものです)

 

神戸 翼

PROFILE 慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。


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