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〈第5回〉医療DX編


神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)

 

今回のキーワード

医療を変貌させるデジタル技術

セルフメディカルチェックという流れ

検査技師自身の「DX化」

 

 今回は2024年という新しい年を迎え、ますます盛り上がりそうな「医療DX」について考えてみたいと思います。


医療DXという潮流


 人口構造の変化により、地方部を中心に人材不足が急速に進み、今後は都市部においても顕在化していきます。このような課題の解決策の1つとして注目されているのが医療DXです。DXとはDigital Transformationの略称で、デジタル技術によって、ビジネスや社会、生活の形・スタイルを変えることを指します。政府方針の中にも医療DXに関連したメッセージが盛り込まれ、2040年に向けたデータヘルス改革や総理を本部長とする医療DX推進本部の立ち上げ、厚生労働省を中心に「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化とクラウド型電子カルテの開発」「診療報酬改定DX」の3つの視点から検討が急ピッチで進む見通しです。昨今は、医療DXの代名詞ともなっているオンライン診療やPHR(personal health record)、治療アプリ、医療AI機器などへの社会の関心も高く、産業界を巻き込んだ“医療DX推進年”と言っていい2024年になりそうです。



専門職としての新たな存在価値を見出す


 臨床検査分野は従来からDXによる影響を大きく受けてきました。例えば、試験管を振ったり顕微鏡で血球を数えたりしていたものが、検査機器装置により自動化され、求められるスキルや知識が変化してきました。一方で、臨床検査技師が淘汰されたわけではなく、効率化により新たなタスクが増え、専門性が深まったり領域横断的な活動が必要になったりしています。つまり、DXという流れは、専門職としての新たな存在価値を生み出すチャンスで、前向きに捉えていくことが必要です。


 最近の医療ベンチャー界隈の動きでは、コロナウイルス流行も重なりセルフ検査キットが流通しています。Withings社のU-Scanなどのスマートトイレセンサーなど、尿中のバイオマーカーなどを自動測定する機器の開発やVitestro社ではAIと超音波を活用した自動採血デバイスの臨床試験が実施され、国内外の幾つかの機関でも同様に研究が進んでいます。


 2022年にパリで開催されたEXPOでは、遠隔診療用キャビンや独立スタンド型診療用システムが展示されました。TESSAN社はフランス全土でキャビン450台を設置し、セルフメディカルチェックと遠隔診療をセットにして、すでに10万人を超える患者が利用しています。その他、PSP社のNOBORIをはじめ検査結果共有アプリが数多くリリースされています。医療情報を個人が持ち歩き、自宅で測定した血圧などの健康情報と併せて、施設に縛られない検査結果の利活用が世界で進みつつあります。


 セルフメディカルチェックの昨今の流れは、臨床検査の実施場所、時間、測定方法、測定者、結果の受け取り方法や説明方法の大きな変化のはじまりを印象づけています。日本政府の医療情報プラットフォーム構想も含めて、他施設での検査結果を積極的に活用していくトレンドは、検査データの扱いと精度管理のあり方、場に縛られない臨床検査の実施という新しい箱を開く足掛かりとなる可能性が高いです。将来的には、近所のコンビニや薬局、公民館で待ち時間なく検査し、医療機関では診察だけという時代が来るかもしれません。


検査技師目線でのアプリ開発も


 大きな進展が見込まれる臨床検査分野のDXに適応していくため、臨床検査技師自身もDX化していく必要があります。わかりやすい例としては、AIサービス「ChatGPT」の活用があり、これは業務メール作成やアイデア出し、長文の要点抽出や要約、インシデントレポートや学会参加報告書の作成、マニュアル作成などの効率化に繋がります。一方で、情報の出所が不明瞭な点がネックであり、情報収集ツールとしてはBingのAIチャットの方が有用そうです。また、研究分野ではリサーチクエスチョンの深堀りや研究計画書、論文等の校正にもAI活用が期待されています。


 また、業務効率化においては、RPA(Robotic Process Automation)が注目されており、これはPC上のルーチン作業を自動化するツールです。ボタン1つで24時間365日、医療者が休みの日も勝手に作業し続けてくれるロボットのようなもので、臨床検査の現場での活用が期待されます。さらに最近では、院内PHSからスマホへのシフトが進んでおり、医学・臨床検査関連の様々なアプリのインストールはもちろん、職員間のコミュニケーションツールとしても大きな可能性を秘めています。スマホであれば、「こんなのあると便利!」という臨床検査技師目線でのアプリを自ら開発するという手段もあり、アイデア次第でDX化がますます促進されます。


 このように医療DXは、医療者の新たな働き方を実現する重要なキーワードになっています。タスクシフトやシェアにも密接に関わるため、業界を挙げて向き合うテーマで、臨床検査技師がリーダーシップを取るべき分野だと強く感じています。


 新たな年を迎え、日本臨床衛生検査技師会の医療DX人材育成施策に期待をしつつ、臨床検査技師個人としても医療DXを積極的に取り入れることで、他職種からも信頼される医療技術のスペシャリストになることができるのではないでしょうか。


(MTJ本紙 2024年1月1日号に掲載したものです)

 

神戸 翼

PROFILE 慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。

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