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〈第6回〉医師の働き方改革編


神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)

 

今回のキーワード

業務集中と長時間労働

労働条件と就業規則

自己研鑽とプロフェッショナル

 

 2024年4月よりスタートする医師の働き方改革。今回はそのポイントを概観しつつ、臨床検査技師を含めた医療者の労働とプロフェッショナリズムについて考えてみます。


医師の労働環境改善へ


 新たに開始される医師の働き方改革は、他の産業より約5年遅れて始まります。これは医師の労働規制が医療というインフラに大きな影響を与える可能性が高く、慎重な検討が必要だったためです。そんな医師の働き方改革に至った一つの理由が、医師の長時間労働です。病院勤務医の約4割が年間960時間以上の時間外労働を行い、約1割は年間1800時間以上(月150時間)、ひと月22日出勤換算だと1日約6.8時間の残業に値します。脳・心臓疾患の労災認定基準が月80時間以上の時間外労働等であることを考えれば、労働環境の厳しさを物語っています。これらに加えて、日当直や研鑽などに関する労務管理があいまいな施設も多く、また、医師が網羅的に活動できるがゆえに分業・分担が進まず、業務が医師に集中するなどの傾向もありました。


 このような状況を背景に、政府は地域医療構想や医師偏在対策、適切な受診行動などの構造的な取り組み、全ての医療専門職が能動的に携わっていくためのタスクシフトやシェアを推進し、医師の健康を守り、医療の質と安全を確保して医療を持続していくことを目指すことにしました。これにより、4月から勤務医に「時間外労働上限規制」と「健康確保措置」が適用されます。


宿直、オンコール、研鑽は労働時間?


 皆さんご自身、または、皆さんの上司や部下は、労働時間をどのように理解しているでしょうか。


 本来、労働時間とは、使用者(医療機関経営者など)の指揮命令下に置かれている時間を指し、法定労働時間は8時間/日、40時間/週などとなっています。ルールを超える場合は、労働者と医療機関との間で労働基準法第36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)を締結することとなります。これにより時間外労働の時間を月◯時間、年◯時間までという具合に定め、医療機関は労働力を確保しています。


 新制度は主に医師に関わるものですが、医師以外の医療者も特別の事情がある場合を除き、36協定において時間外労働月45時間、年間360時間が上限とされています。医師のA水準年間960時間や、B・C水準1860時間(C水準は研修医などが該当)と比べると大きな差があり、医師の負担が大きいことがうかがえます。


 さて、労働時間との兼ね合いで気になるのが宿直で、今回の働き方改革の議論でも焦点の一つになりました。宿直は原則労働時間となりますが、医療機関が労働基準監督署より宿日直許可を取得すれば、労働時間に含まれなくなります。なお、許可基準ではほとんど労働をする必要のない勤務とされ、手当の最低額は一人1日平均額の3分の1以上、夜間に十分睡眠が取り得ることとされています。もし、1日給与3分の1の待遇で、睡眠がとれず、フル稼働している実態がある場合は今後、問題視される可能性があります。


 次に、オンコールについてですが、待機中に求められる義務態様によって労働時間になるかならないかが判断されます。例えば、呼び出しの頻度、どの程度迅速に病院に到着すべきか、待機中の活動がどの程度制限されるかなどで、個別の実態を踏まえて判断された裁判例があります。


 さらに医療者であれば気になるのが研鑽で、上司などの明示・黙示の指示によって行われる研鑽は労働時間に該当するという整理がされています。裏を返せば、在院時間が全て労働時間となるわけではないということです。研鑽の具体例としては、ガイドラインや検査手法などの勉強、学会・院内勉強会などへの参加や準備、資格取得・更新の講習会受講などが考えられます。


 このように、労働時間と宿直・オンコール・研鑽の関係は個別性もあり、施設によって違いがあります。気になる場合は上司や担当部署に確認し、また、部下を持つ役職者であれば自施設のスタンスを確認しておくことをお勧めします。医療者は、自身の労働条件を把握していなかったり、就業規則を一度も読んだことがない人も多いようです。自分たちの業務活動について、組織がどのように考えているのか、労働条件通知書と就業規則で確認してみることは働き方についての変化が激しい今の時代だからこそ、大切ではないでしょうか。


研鑽に必要な費用は個人負担?


 医師は、2004年より新医師臨床研修制度が開始され、臨床研修指導ガイドラインに基づき、臨床研修が実施されています。また、免許取得後に研修医、専攻医、認定医などといったキャリア形成を歩み、医師としてのプロフェッショナルを体現していきます。一方で、前述の通りこれらの研修は労働時間に計上されるため、医師の働き方改革により一人前の医師になるための研修が制限されては本末転倒です。そのため、今回の上限規制にいくつかの選択肢を設けて運用することになりました。


 医師だけでなく、他の医療職種もプロフェッショナルになるためには長時間の研鑽と関係各署の支援が必要です。しかし、臨床検査技師をはじめとする他の医療職種の多くは臨床研修が制度化されておらず、現場の医療機関に委ねられています。OJT(On-the-Job Training:組織内で業務を通じて知識・技術の習得を目指す教育・研修手法)、Off-JT(Off-the-Job Training:組織外で、特別に時間や場所を取って行う教育・研修手法)、自己研鑽支援など創意工夫をしているところもありますが、規模が小さかったり、ノウハウがない医療機関等では、労働と教育のバランスがうまく取れず、職員の離職につながるケースも少なくありません。


 研鑽に対するインセンティブとしての労働時間の扱いや学会の参加費用負担などは、医療者個人の悩みの種にもなっています。昨今では臨床検査技師会や専門学会をベースとした専門教育(いわゆる臨床研修に相当するもの)を通してプロフェッショナリズムを培っていく流れもあり、賃上げがなかなか実現されない中での個人負担の増加は負のスパイラルです。複合的に絡み合うプロフェッショナルの養成の在り方について、医師の働き方改革を機に考えてみてはいかがでしょうか。


(MTJ本紙 2024年2月1日号に掲載したものです)

 

神戸 翼

PROFILE 慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。

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