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〈レポート〉採血の順番案内をライブ配信 岐阜大学医学部附属病院


 岐阜大学医学部附属病院(岐阜市、614床)の検査部が、動画投稿サイトのYouTubeで外来採血の呼び出し案内をライブ配信している。採血室の混雑・待ち時間状況が、ネットにつながるスマホなどがあればどこからでも確認でき、患者が病院内のカフェや駐車場の車内などでも採血の順番を待てるのがメリットである。数万円の初期コストと機器接続の知識があればできる比較的手軽な取り組みだが、コロナ禍を経て仕事や生活スタイルに合わせようとする試みの一歩でもある。

 
岐阜大学医学部附属病院

 「コンパクトな検査室」。検査部の菊地良介技師長は、業務効率を追求してきた自院の現状をそう表現する。検査部は病院2階にあり、組織上別部門である輸血部や病理部の検査室が隣り合う。大学病院としては決して広くないスペースにほぼ全ての検査機能が集約されている。


 検査部の職員数は50人(パート職員含め)である。大きく生理検査、検体検査、微生物検査の3つの検査部門に分かれており、新入職者はローテーションにて基礎教育研修が行われたのち、それぞれの担当部門で専門性を高めていく。


 比較的少ない職員数で検査を担えているのは特に分析系で効率化を進めてきたからという。検体部門には検体搬送システムを導入し、検体受付・遠心操作後、分注機に検体を投入すれば、自動で測定が進み、終われば保管庫に収まる。各検査装置の操作画面や電子カルテ端末など計7台のモニターをさながらコックピットのように1カ所に集め、データの承認や進捗の管理、追加検査オーダーの対応などを1人で受け持つ。


 同じ2階にある内科や外科、小児科の処置室からの検体はAI搭載の自動移動型テレプレゼンスアバターロボット(temi)が検査室まで運ぶ。人がいると自動で止まる機能が備わり、混雑時でも患者とぶつかるトラブルは一度もないという。



検体を検査室まで運ぶAIロボ。通称「temiちゃん」


 採血室は、待ち時間を20分に短縮する想定で、2023年12月に採血台を2台増設し計9台とし、2024年1月には採血・採尿・生理検査の自動受付機2台を導入した。臨床検査技師、看護師の計10人が交代で平均380人/日の採血を担当し、採血後、搬送ラインに採血管を投入し隣の検査室へ送る。


 採血台の増設と自動受付機の導入の効果は顕著だ。2024年1月からは外来患者数の増加もあり平均440人/日となったにも関わらず、平日午前10時半頃までの待ち時間が平均30分から平均20分以下へと減少した。


患者が通路にも


 採血台を増設する以前、平日午前11時ごろまでの時間帯は、採血待合のスペースに患者があふれていた。職員2人による検査部(採血・採尿・生理検査)の有人受付までに30分を要し、受付してから採血までの待ち時間は1時間になった。


採血台は計9台(2023年12月に2台増設)

 約20年前に移転した当時の採血台は3台だったという。外来患者数の増加に伴い、採血室内にあった中待合のスペースを削り取るように採血台が増設されていき、結果、患者が採血を待つ場所は、受付窓口前の長椅子7列のスペースだけになった。建物の構造上、スペースを広げることは難しく、採血患者が集中する平日午前の時間帯は、通路にまで患者があふれた。


 この状況を解決するため検査部は矢継ぎ早に対策を講じる。その1つが、YouTubeによる採血順番案内のライブ配信である。他大学病院の先行事例を参考にして2023年11月に配信を開始した。スマホで順番待ちの案内が見られるようになれば、採血室近くで待機する必要はなく、病院内の別の場所や駐車場の車内でも採血を待てる。岐阜大学医学部附属病院は富士通が提供するHOPE LifeMark-コンシェルジュアプリを採用しており、このアプリにリンクを登録することで病院全体を採血待ちスペースにする発想が可能となった。


 準備は比較的簡単だ。病院の医療情報セキュリティ委員会に承認を得た上での話だが、配信機材に採血待ち案内のモニターを分岐接続し、YouTube上の専用チャンネルから常時配信する。機材購入の費用は数万円で、ランニングコストはかからない。常時接続のため数週間に一度、配信機材を再起動する以外、ほぼ手もかからない。採血時間が終了し院内モニターに何も表示されなくなれば、YouTubeでは黒い画面が流れ続ける。画面に表示されるのは、患者一人一人にランダムに割り振られる採血番号のため個人情報を気にかける必要もないという。


 情報共有のツールにも


 検体検査部門を担当する副技師長の石田秀和氏は、「ネットがあればどこでも(採血待ち案内の画面が)見られる」と話す。ライブ配信の閲覧回数は1日平均15件程度とさほど多くないが、時間帯と重ね合わせると興味深い結果が見えてくる。平日午前11時までの間、平均採血待ち時間が長いと連動して視聴回数が増える傾向があり、活用を感じるという。


 検査室内にモニターを置きYouTubeを流せば、「検査部スタッフが採血の進捗状況を確認して、仕事を切り替えたりすることももちろん可能」(石田氏)。採血がいつも以上に混雑していると気づけばスポットで応援に入るという


検査室内の採血順番案内のモニター(右上)

 生理検査室でもモニターを確認し、採血待ち時間内に心電図検査を行うなどの運用ができるようになった。「採血待ちの患者さんを呼び込んで心電図検査を済ませ、終わったら『もうすぐ採血に呼ばれますから』と採血状況の案内ができる」。生理検査部門担当の副技師長の関根綾子氏は、採血待ち時間を活用した生理検査を説明する。同じフロアにあるからこそ可能な運用だが、YouTube配信の画面が検査室内での情報共有のツールにもなっている。


 検査部は採血台の増設、自動受付機2台を導入、そしてYouTube配信を通して、採血待ち時間の課題と患者待合の混雑、そして患者の採血待ち時間の見える化を実現させた。


次のテーマは…


 「他の検査を先に受けたり院内のカフェや駐車場で仕事してくれててもいい。そのための情報を提供したかった」。菊地技師長は、「自分が患者であれば」と自分を主語にして考えた結果、YouTube配信を取り入れたと語る。採血待ちの状況がどこからでも見えれば、患者は自らの時間をもっとうまく使える。


 YouTubeの配信画面はここからご覧になれます。


 次のテーマは「検査結果が出るまでの時間の見える化」だという。検査結果報告の時間は診察開始の目安でもある。見える化できれば、診察までの患者の過ごし方も変わる。「何時間後、何分後にこうなると予測がつけば、各自がスケジュールを調整して、この時間は病院で過ごすけれど、ここは仕事もできるという選択肢になる。そうなれば働く世代の受診率を上げられるかもしれない」。受診のハードルが今よりも下がり、それが早期発見や予防にもつながるかもしれない。菊地氏は、その先にある予防医療へも見通している。


 タイパ(タイムパフォーマンス)が重視され、個人が自分の生活や仕事をよりデザインする時代になった。忙しい社会人が増え、オンライン会議やテレワークなど仕事の仕方は変わり続ける。社会のありようによって医療サービスの在り方ももちろん変わる。YouTube配信は、そんな今の変化をとらえた一歩でもある。


(左から)関根氏、石田氏、大倉宏之検査部長、白上洋平副部長、菊地技師長

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