医療法人社団紘和会平和台病院(宮崎市、80床)の検査室は、2018年の改正医療法の施行を契機にQCサークル活動を取り入れた。日常業務の中で気付いた課題をテーマに設定し、数人のチームが原因究明して改善策を検討する。その成果の1つが、5年目の若手臨床検査技師が主導した乳びの判定方法の統一化。独自に策定した判定基準により検査技師間の目視判定のばらつきが解消し、正確な結果報告への一助となっている。
平和台病院は、糖尿病診療を中心に内科系の外来、入院治療を提供している地域密着の医療機関。検査室は臨床検査技師11人が所属し、うち7人が検体検査を、4人が生理検査を担当している。糖尿病の継続管理の患者が多い特徴から、外来患者の採血率が9割以上と高く、検体担当の7人を中心に全4台の採血台で1日150〜200件もの採血に当たる。また糖尿病療養指導士の資格を6人が取得し、患者向けの糖尿病教室で講師を務める。
◆医療法改正を契機にQC活動
QCサークル活動は、技師長である吉田治代室長の発案で取り入れた。2018年に検体検査の精度確保が医療法で法制化され、検査の品質をさらに向上させていく必要があると考えたからだ。検査室から臨床に報告する検査データを「製品」と見なし、現場のスタッフ数人が原因や対策を話し合い、課題解決を導く。
2021年のテーマにしたのが、乳びの判定方法の統一化。活動を主導した検査技師5年目の甲斐勝伍氏は、測定装置の判定と目視判定との乖離が日常業務の中で気になっていたと話す。「乳びは検査結果に付属する検体情報の1つ。正しいものを臨床側に返す必要がある」。目視判定の統一化へほか2人の検査技師と共に活動を始めた。
乳びの検体では脂質項目が高値になることが知られているが、決められた判定基準はない。平和台病院では、測定装置の判定と目視判定の乖離があった際、以前は、測定装置の結果をそのまま報告する技師もいれば、目視を優先して報告する技師もいたりと、検査技師それぞれの判断に委ねられていた。
甲斐氏らが実態を調べ、検査技師によって目視判定に大きなばらつきがあることを確認。動画を撮影して原因を探ると、測定装置の前、白い壁の前、指を後ろに添えるなど、各検査技師がそれぞれの場所、それぞれの目安で行っていたことが分かった。
◆3つの色で乳びを判定
統一化のためまず、濁度を表す単位である「ホルマジン濁度(FTU)」の数値により乳びの程度を以下の4段階で定義した。
▼乳びなしの「マイナス」(FTUが400未満)
▼軽度の「1プラス」(FTUが400〜799)
▼中度の「2プラス」(FTUが800〜1599)
▼高度の「3プラス」(FTUが1600以上)
では、この定義を日常業務の中でどう使うのか。
試行錯誤の結果、甲斐氏が見つけ出したのが、黄色、オレンジ、黒の3つの線を引いた判定ボードだ。3本線の手前に検体を重ね、透過して見える色で乳びの程度を目視判定する。3つの色が見えればマイナス、黄色が見えないと「1プラス」、黄色とオレンジが見えなければ「2プラス」などと判定する。
一目で判定できる簡易な方法で、甲斐氏は、黒色と比べて乳びを説明した文章を見て、このアイデアを思いついた。血清に近い色を自分で探し、さまざまな色の組み合わせを試したという。
判定ボードを使って、TGが200mg/dL以上の20検体を検査技師10人で判定したところ、うち19検体で乳びの程度の判定が一致し、目視判定のばらつきが大きく改善した。甲斐氏は、「QCサークル活動を通して皆が同じような結果を返せるようになり診療の手助けになる情報を報告できるようになった」と統一化の手応えを語る。今後は、測定装置と目視判定との一致をさらに検討していくつもりだという。
◆日常の気付きを改善へ
QCサークル活動はその後も続き、2023年には、静脈血清を用いていたグルコース検査について、診療部からフッ化Na加静脈血漿でなければならないとの指摘を受け、検体種によるグルコースの検査品質について検討。その結果を基に診療部とともにグルコース検査に血清、血漿を用いる運用を取り決めた。
日常業務での気付きを業務改善へ―。検査データの品質確保のための地道な活動が地域の医療機関の検査室に根付いている。
(この記事の乳びの判定基準についての検討結果は、第57回日臨技九州支部医学検査学会〈2023年10月〉の一般演題で報告されました)