医療資源の乏しい地域に臨床検査技師を派遣し、心臓血管疾患のスクリーニングを行う病診連携の取り組みが軌道に乗り始めている。福島県の竹田綜合病院(会津若松市、837床)は2021年10月から心臓血管外科医と臨床検査技師が2人1組となって過疎地で心エコーや診察を行う試みを開始した。2023年9月からは臨床検査技師のみによる出張検査も始まった。派遣先は現在11施設だが、病診連携が機能し始めたことでニーズが拡大し、派遣する検査技師を増やす検討にも入っている。
竹田綜合病院が中核医療機関として支えている会津・南会津の地域は、東京都の2.5倍の広大な面積を抱える一方、山間部が多く、最も遠いエリアまで車で片道2時間かかるなど交通アクセスに難点を抱える。加えて、エリア北東の会津若松市に大病院が集中し、それ以外の地域の住民は専門医への受診が難しいのも現状だ。65歳以上の割合(全国平均28.9%)は会津地域で36.7%、南会津地域で45.7%と高齢化が深刻化するだけでなく、人口10万人当たり医師数(全国平均256.7人)が194.2人という医師不足にも向き合う。
◆ 心エコー担当の6人でローテ
検査技師を派遣するきっかけとなったのは、心エコー検査・診察ができる医師の派遣の要請があったこと。2021年10月から始まった派遣は当初、心臓血管外科医が1人で出向いたが派遣先施設でエコー検査体制が整っていないことに加え、検査と診察、準備等を医師1人で行うには負担が大き過ぎることから、検査技師が同行する診療チームに体制を変更。そこから4地区4施設での心エコー検査の派遣支援が始まった。
医師と共に派遣されるのは、同病院の検査技師約60人のうち、心エコー検査を担当している6人。ローテーションを組み、対象の4施設に平均月1回の頻度で赴く。午前中の通常業務後に出発し、午後の時間帯に派遣先施設での検査や診察を行い、夕方に病院に戻ってくる。現地では医師が診察し、心エコー検査を検査技師が担当する。
2023年度実績を見ると、4施設の検査件数は月平均30件だが、4施設からの紹介数実績は派遣前に比べて大きく上昇した(図1)。4施設のうちA病院が1人→28人、B診療所が2人→13人、C病院が2人→28人、D病院が3人→36人となり、医師と臨床検査技師がタッグを組んだサポート体制の成果が紹介患者数の多さに表れ始めている。
◆ 紹介件数増で経営効果
2021年10月~2024年3月に竹田綜合病院に紹介されたのは118件(図2)。疾患別に見ると、大動脈弁狭窄症等の弁膜症疾患が41件(34%)で最も多かったが、胸部大動脈瘤などの大血管疾患も18件(15%)あった。
このうち手術適応となったのは17件(図3)で手術内容は大動脈弁置換術9件、経カテーテル大動脈弁留置術3件、胸部大動脈置換術3件など。また、紹介患者による病院の医業収入は、紹介118件の検査料や手術料等の診療報酬点数を算出すると約5500万円となり、病院経営にも貢献している。
竹田綜合病院CM部臨床検査科の星勇喜氏は、「年齢とともに増える心臓弁膜症は潜在患者も多い。過疎地まで出向いて検査することで、遠くの大病院まで通院することなくスクリーニングができた」と説明。さらに「専門治療への紹介数も明らかに増えるなど病診連携の強化だけでなく、病院経営にも貢献できた」と話している。
◆ 検査技師のみ派遣も開始
心臓疾患スクリーニングの成果が見え始める一方で、派遣医師が心臓血管外科医1人しかおらず、派遣先施設を4施設から増やせないという課題にも直面した。このため、医師と検査技師が一緒に出向いている4施設とは別に、検査技師のみを派遣する出張形式での検査を検討。派遣を希望する医療機関と契約を結び、2023年9月からは検査技師のみの派遣をスタートさせた。担当するのは心エコー検査の経験豊富な検査技師で現在の派遣先は7施設。従来から支援してきた4施設を加えると、計6地区11施設への派遣体制が組まれている状況にある。
検査技師のみが出張する7施設の検査件数は月平均41.5件(2023年9月〜2024年2月)。検査項目の内訳は心エコー検査209件(84%)、頸動脈エコー検査38件(15%)など。検査の結果、竹田綜合病院に紹介されたのは15件で、そのうち大動脈弁狭窄症9件が最多だが、内頸動脈狭窄症疑いも2件あり、心臓以外の疾患の早期発見にも寄与できる可能性が示されている。
派遣先の医師からは、「聴診で大動脈弁狭窄を疑い、紹介していいのかを迷うが、超音波検査で客観的に評価できると紹介しやすい」「心雑音があるので大病院への受診を促すがなかなか行ってくれない。超音波画像を見せて説明すると患者自身が納得してくれる」などの声が寄せられており、過疎地の医療アクセス向上に貢献する試みへの評価は高い。
派遣される検査技師の意識にも変化が出始めている。派遣メンバーの齋藤麻依子氏は、「最初は抵抗もあったが、実際に出向いてみると、過疎地の開業医の先生と直接話す機会ができたし、現場で何に困っているかが把握できた」と話す。「先生や患者さんに『遠くまでわざわざ来てくれてありがとう』『しっかり検査してもらって良かった』と言われればうれしいし、やりがいを実感する」。検査技師としての意欲にもつながっているという。
◆ 「故郷の地域医療に貢献」
Kommentare