〈サクッと解説〉#05 ISO 15189、JIS化で国内検査室の底上げにつながるかkona364月30日読了時間: 3分 臨床検査室の品質と能力に関する国際規格ISO 15189の日本産業規格(JIS)が、2025年秋にも制定される見通しです。検査関連学会、団体からの推薦メンバーで組織する「JIS Q 15189原案作成委員会」(委員長=宮地勇人・新渡戸文化短期大学長)が原案作成を終え、今後、日本産業標準調査会(JISC)での審議などを経て官報公示される予定です。 JIS化は、中小規模の検査施設でもISOが提唱する品質マネジメントなどについて学びやすい環境を整えることが狙いの一つになっており、ISO 15189:2022対訳版よりも分かりやすい和訳と解説を示します。 ISO 15189は2025年4月現在、国内では約300施設が認定を取得しています。第4版となる2022年版が最新版で、認定取得により臨床検査の質が担保されるほか、診療報酬上の「国際標準検査管理加算」が算定できることなどがメリットになっています。 一方で、ISOの認定取得には多額の費用がかかり、認定を維持するための業務負担が大きいことが課題です。大規模病院や大手検査センターでなければ取得が難しい現実があります。また、ISO 15189を学ぶための資料として対訳版が発行されていますが、英文の逐語翻訳のため理解が難しいという声もありました。◆秋ごろに官報告示へ ISO 15189のJIS化の検討作業は、JIS Q 15189原案作成委員会が進めました。厚生労働省医政局や日本規格協会をはじめ、日本臨床検査医学会や日本臨床衛生検査技師会、日本衛生検査所協会、日本臨床検査薬協会、日本適合性認定協会などの関連学会・団体から推薦されたメンバー約20人で構成されています。 2024年6月から始まった原案の検討は同年12月に最終調整を終えており、JISCの部会や専門委員会での審議に8カ月程度かかる見込みです。必要な手続きを経てISO 15189のJISとして制定され、今年の秋ごろに官報公示される見通しです。◆正確な和訳や解説を示す JISは製品やサービスの標準化のために制定される日本の国家規格です。国際規格との整合性が求められるため、JISの原案にはISO 15189の要求事項で使われている用語や定義などの翻訳を正確に落とし込んでいます。また、ISO 15189の要求事項の理解を深めるための分かりやすい解説も併せて示される予定です。価格もISO 15189:2022の対訳版(税込み6万3481円)の「10分の1程度」(宮地氏)で購入できる見込みで、小規模施設でも手が届きやすくなりそうです。 一方、JISには第三者機関からの適合性審査、認証を受けて「JISマーク」を表示できるものもありますが、ISO 15189のJISは現時点でこうした表示制度は設けない方向です。◆質保証に取り組む施設拡大に貢献 原案作成委員長の宮地氏は、ISO 15189のJIS化の意義について、「正しい日本語訳をベースに臨床検査関係者の相互理解が進む。臨床検査サービスの品質の改善に寄与することができる」との見方を示しています。 臨床検査の品質や精度の担保は、施設規模に関係なく、検査業務の基盤となる重要なテーマです。ISO 15189の認定を取得していない施設でも、要求事項について学びやすい環境が整うことは有意義といえるでしょう。 ただ、どんなに環境が整えられても、実際に学ぶかどうかは施設の長や検査室の責任者の考え方次第かもしれません。また、学んだことを自施設の検査室に落とし込めるかどうかが今後の課題になると思います。 JISは、それぞれの検査室が現状に改めて向き合い、これまで以上に検査の質や精度の改善に取り組むきっかけになるでしょうか。国内の検査室の底上げにつながるのか、注目したいです。(河)