〈第18回〉進化する生成AIモデル、臨床検査技師による活用法(1)
- mitsui04
- 6月23日
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野坂 大喜(弘前大学大学院保健学研究科/医学部保健学科、弘前大学情報連携統括本部情報基盤センター 兼任)
キーワード
自然言語処理モデル
画像生成モデル
音声生成モデル
本連載ではこれまで、臨床検査におけるAI駆動型検査技術を解説してきました。しかし、医療AI技術はさらなる進化を遂げようとしており、そのコア技術となるのが「生成AI」です。生成AIとは、学習データに基づいて文章や画像、音声などを新たに「生成」するAIモデルの総称です。臨床検査の分野でも、業務効率化や新たな知見の発見に貢献する可能性を秘めており、その特性を理解し活用することが重要になります。本稿では、生成AIの主な種類について、それぞれの概要と特徴を紹介したいと思います。
◆言葉を理解し生み出す「自然言語処理AIモデル」
自然言語処理(NLP)モデルは、人間が日常的に使う「言葉(自然言語)」をコンピューターが理解して処理する技術です。生成AIとしてのNLPモデルは、与えられたテキスト情報に基づいて、自然で意味のある文章を生成したり、長い文章を要約したり、異なる言語へ翻訳できたりするのが大きな特徴です。すでにグーグル翻訳などをご利用の方も多いと思いますが、現在、特に注目されているのがChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLMs)です。これらはインターネット上の膨大なテキストデータを学習し、まるで人間が書いたかのような自然な文章を作り、質問応答、文書作成、要約、翻訳など、非常に幅広いタスクに対応します。生まれてくる文章は、多くの人にとってまるで人間と会話しているかのように感じられ、最も身近な生成AIの一つとして定着し始めています。
臨床検査領域でもNLPモデル活用が期待されています。例えば、日々の業務で発生する検査報告書の草案作成、あるいは特定の検査に関する解説文の自動生成といった定型的な文書作成業務の効率化に大きく貢献できます。また、膨大な量の医療論文やガイドラインの中から必要な情報を効率的に抜き出したり、内容を簡潔にまとめたりする情報抽出・要約も得意なので、最新の医療情報を迅速にキャッチアップし、日々の業務や研究に生かすことが可能です。
また、臨床検査室では患者検査相談業務の取り組みも行われていますが、患者さんからの質問に24時間自動で回答したり、医療スタッフからの検査質問に的確に対応したりするチャットボットとして活用することで、問い合わせ対応の効率化や迅速化につながることが期待されます。
◆イメージを形にする“画像”生成AIモデル
画像生成モデルは、説明やキーワード、既存の画像に基づいて新しい画像を生成するAIです。現実には存在しない風景、人物、物体などの画像をゼロから作り出すことも、既存の画像を加工・変換することも可能です。臨床検査領域では、「テキストto画像(Text-to-Image)」機能により、テキストで指示した画像を生成することで、資料の作成や特定の病態の視覚的表現に役立ちます。また、画像編集・加工により、既存の顕微鏡画像からノイズ除去や特定の細胞成分の強調表示を行い、診断支援のための画像処理にも応用できます。一方で、AIモデルの作成にも利用でき、深層学習に必要な画像データが不足する際には、データ拡張(Data Augmentation)として多様なバリエーションの画像をAIが自ら生成し、学習データの量を増やせるため、AIモデル性能の向上が期待されます。
◆声を操る“音声”生成AIモデル
音声生成モデルは、テキスト情報や既存の音声データに基づき、人間の声を合成したり、特定の音声を生成したりするAIで、テキスト読み上げ(Text-to-Speech=TTS)、声質の変換、感情を込めた音声の生成などが可能です。臨床検査領域では、報告書や説明文の音声を読み上げることで、視覚障害者への情報提供や、検査作業中に操作手順を耳で確認したい場合に役立ちます。また、音声認識と組み合わせることで検査結果の口頭入力や音声コマンドによる操作を可能にし、音声による情報入力の効率化が図れます。
ただ、生成AIは強力なツールである一方で、生成された情報の正確性の検証、著作権、個人情報保護といった倫理的側面に限界が存在するのも事実です。特に医療分野では、生成された情報が直接診断や治療に影響を与える可能性があるため、その信頼性や安全性は最重要課題として常に考慮する必要があります。
本稿では、生成AIの主要なモデルである自然言語処理モデル、画像生成モデル、音声生成モデルについて解説しました。これらのモデルは、臨床検査技師の業務効率化、情報収集、教育、そして新たな価値創造に大きく貢献し得るものです。次回からは、生成AI技術を詳しく見ていくとともに臨床利用上の注意点、また臨床検査現場での具体的な活用を解説していきます。

※次回(7月24日木曜日配信予定)の第19回では、「自然言語処理技術、自己注意機構」などを解説する予定です。
野坂 大喜
PROFILE |大学病院勤務を経て現職。医用工学・情報科学を専門とし、病理画像診断システムの開発に携わる。大学発ベンチャー取締役の企業経験も有し、現在は医療AI技術や医療VRの研究を進めると共に、AI社会における言語技術教育に取り組んでいる。