top of page

〈インタビュー〉菊地歩さん(太田綜合病院附属太田西ノ内病院臨床検査部生理検査科・総合睡眠医療センター)睡眠関連検査で患者情報の共有に注力 育児との両立に不安も、演題発表に挑戦

  • mitsui04
  • 2 日前
  • 読了時間: 7分
ree

 インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)

ree
 太田綜合病院附属太田西ノ内病院(福島県郡山市)臨床検査部生理検査科係長の菊地歩さんは、同病院の総合睡眠医療センターで、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)などの睡眠障害の有無や重症度評価のための終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)や結果説明などを担う。特に、スタッフ間の患者情報の共有や、地域で連携する医療機関からの問い合わせ対応に注力。CPAP(持続陽圧呼吸)療法を受ける在宅患者は増えており、患者からの質問や相談にも丁寧な応対を心がける。CPAP療法の装置について「使い方を説明した患者さんから、うまく装置を使えるようになったという声を聞くと本当にうれしいです」と菊地さん。睡眠関連検査業務のやりがい、地域連携や患者対応で大切にしていることなどについて、話を聞いた。
―睡眠関連の専門医療機関は全国的にそれほど多くはありません。総合睡眠医療センターでは、どのような検査や医療を提供されているのでしょうか。臨床検査技師が果たしている役割を教えてください。

 総合睡眠医療センターは、日本睡眠学会が認定する専門医療機関(2024年7月現在:全国114施設)の一つです。東北地方では専門医療機関が特に少ないので、郡山市外の患者さんから問い合わせをいただくこともありますね。

 当センターの重要な役割としては、種々の睡眠障害疑いに対応しているPSGの実施です。脳波、眼球運動、心電図、呼吸、いびき、動脈血酸素飽和度などの生体活動を一晩にわたって測定するもので、測定中は臨床検査技師がモニタリングします。検査予約から、患者さんへの検査前の説明、そして結果説明まで一連の業務を臨床検査技師が行っています。2015年からは地域の医療機関との連携体制も臨床検査技師が中心となり構築しました。また、CPAP療法を遠隔モニタリングしている医療機関も増えているので、在宅での使用データを見て、連携施設の医師からCPAP使用に不具合がある場合などの問い合わせ窓口にもなっています()。

ree
ree

―菊地さんはなぜ、臨床検査技師になろうと思ったのですか。睡眠領域の検査に携わる前まで、どのようなキャリアを積んでこられたのですか。

 私は生まれも育ちも郡山市で、父が歯科技工士で自宅で仕事をしていました。自然に、子どもの頃から「医療に携わる仕事がいいな」とは思っていました。ただ、父の仕事の大変さも見ていたので歯科技工の仕事を継ぐのではなく、病院に勤めたいという思いがあり…。どちらかというと、子供の頃からみんなと外で遊ぶより、一人で工作したり絵を描いたりするのが好きなタイプで、進路を考えた時、医療職種をいろいろ調べて、検体を取り扱う臨床検査技師が向いている気がしたんです。

 養成校を卒業した2004年前後は、臨床検査技師の就職難の時期でした。県内の病院の求人は少なく採用されず、結局、医療機器を取り扱う企業に就職しました。その企業では、睡眠関連検査の機器を販売しており、医療機関に出向いて納品した機器の使い方を説明したり、依頼された解析業務などを担当しました。

 毎日スーツを着て、あちこちの医療機関を訪問しながら、「検査室で働く姿を思い描いて臨床検査技師になったのに、いったい何をしているんだろう」という思いがありました。ただ、今になって振り返ると、さまざまな医療機関の検査部を見ることができたのは良い経験だったと思っています。

◆患者さんに向き合う仕事の楽しさを実感

―企業を経験した後、医療機関へ転職されたのですね。睡眠関連検査に臨床の現場で携わることを希望されたのですか。

 企業に2年弱勤めた後、PSGを実施している診療所から声をかけていただき就職しました。CPAPの使い方を患者さんに説明している中で、「説明が分かりやすく、うまく使えるようになった」などと感謝される機会が多く、それが本当にうれしくて…。「患者さんに向き合う仕事は楽しい」と実感しました。それで、もっと患者数の多い病院で働きたいという気持ちが膨らみました。

 24歳の時、当時の太田記念病院への採用が決まり、念願だった病院での勤務がかないました。その後、2009年に太田記念病院が閉院になり、現在、太田西ノ内病院の所属です。

―CPAPは患者さんが自宅で寝ている時に使用する装置という点で、通常の検査とは異なる部分が多いのではないかと思います。睡眠関連の検査業務の中で、特に意識されていることはどのようなことですか。

 CPAP療法は、圧力をかけた空気を鼻から気道に送り込み、患者さんの睡眠中の無呼吸などを防止する治療法です。患者さんの顔や鼻に合わせて装着するマスクや、空気圧の調整が必要です。患者さんが自宅の寝室で使うので、実際にはマスクがずれて空気が漏れてしまったりすることもあり、「うまく装着できない」という相談が寄せられることが多いです。

 さらに、CPAP装置の種類は複数あって、使い方が微妙に違ったり、マスクの形状や装着方法も異なります。使用する装置やマスクの仕様を頭に入れて、実際に患者さん自身が使うことをイメージしながら、分かりやすく伝えています。それでも患者さんがうまく使えない場合には、マスクなどを変更することも検討します。

 こうした業務を担う上で、治療の状況や患者さんが使用している装置やマスクの情報をスタッフ間で共有しておくことが大切です。情報共有の仕組みが必要と考え、同僚や上司とも相談して、電子カルテ上にテンプレートを作成しました。例えば、患者さんがマスクを変更する場合、その原因は装着部の痛みや違和感、肌トラブルなど多様なケースがあります。そういった経過などを入力するものです。

 電子カルテのシステム上に作成した「CPAP管理」のテンプレートは、治療中の患者フォローの欄があり、「マスク変更」をチェックすると、原因が記載できるようにしています。変更になった場合、担当した臨床検査技師が該当するものにマークすれば記録が残ります。電子カルテを見れば、それぞれの患者さんに処方された圧力などの治療情報だけでなく、装置やマスク、チューブの変更履歴も情報共有できる仕組みです。

◆育児との両立の不安乗り越え

―これまでのキャリアを振り返って、壁にぶつかったことなどはありますか。どのように乗り越えたのでしょうか。

 2011年の東日本大震災の頃に結婚して2人の子どもを出産しましたが、子どもたちが幼い時は育児と仕事の両立ができるかどうか悩みましたね。そして、忙しい毎日に追われる中で、6年ほど前、上司から「PSG検査の検査前、検査結果の説明」をテーマにした演題を発表してみたらどうかと声をかけていただきました。育児と日々の検査業務に加えて学術活動までできるのかどうか、不安が大きかったことを覚えています。

 でも、周囲の協力もあって無事に発表でき、それが日本臨床衛生検査技師会の学術奨励賞の優秀演題賞に選ばれました。この経験が自信になり、業務の一つ一つに優先順位をつけて、それぞれどの程度の時間や手間をかけるか考え、要領よくこなせるようになってきていると思います。当院の取り組みを多くの人に知ってもらい、睡眠関連検査を通して臨床検査技師が臨床に貢献できることを広めていく重要性も実感しました。

◆何か一つでも挑戦を

―検査現場では学会発表などに取り組む余裕がないと考えている臨床検査技師もいるように思います。菊地さんご自身の経験を踏まえて、メッセージをお願いします。


 私自身、目の前の仕事で精いっぱいになってしまうタイプだったのですが、上司や同僚にサポートしてもらえる環境があり、学会での演題発表までチャレンジできました。

 どちらかというと臨床検査技師は「受け身」の人が多いように思います。でも、私自身学会での演題発表などを経験して、「何事もやってみなければ分からない」と思うようになりました。特に若手の方には、学術活動でも地域の連携施設との取り組みでも、勇気を出して新しいことに挑戦してみてほしいですね。

2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

その他の最新記事

MTJメールニュース

​株式会社じほう

bottom of page