〈第20回〉生成AI技術の注意点 臨床検査技師による活用法(3)
- mitsui04
- 2 日前
- 読了時間: 4分

野坂 大喜(弘前大学大学院保健学研究科/医学部保健学科、弘前大学情報連携統括本部情報基盤センター 兼任)
キーワード
インタープリタビリティ
AI倫理
フェイク
生成AIは検査業務の効率を大きく高める可能性がありますが、その利点を最大限に生かすには、技術的な側面だけでなく、潜在的なリスクも理解しておくことが重要です。今回は生成AIを適切に活用するための考え方を掘り下げていきます。
◆インタープリタビリティって?
生成AIは複雑なデータからパターンを学習しますが、その意思決定プロセスはしばしば「ブラックボックス」です。つまり、AIがなぜその結論に至ったのかが人間には理解しにくい部分があります。この「なぜAIがそのように判断したのか」を説明できる能力が「インタープリタビリティ」です(図)。臨床検査では、インタープリタビリティは極めて重要です。例えば、AIが患者さんの検査結果から疾患リスクを予測した場合、その予測がどのデータに基づいているかを理解できなければ、その予測結果をうのみにすることはできません。特に、診断や治療方針に直結するケースでは、AIの判断根拠を医師や患者さんに説明できることが不可欠です。
臨床検査技師は、AIが提示した結果を単なる数値として受け取るのではなく、「この結果はどのような根拠に基づいているのか」という視点を持つことが求められます。AIが提供する情報は、私たちの臨床的判断をサポートするツールであることを認識し、その判断の妥当性を評価するために、インタープリタビリティを常に意識する必要があります。
◆生成AIで必要になる新たな倫理観
生成AIを医療現場に導入することは、新たな倫理的課題も生み出します。AIが患者さんの個人情報や機密性の高い医療データを扱う以上、厳格なAI倫理が求められます。重要な倫理的側面の一つは「公平性」です。AIの学習データに偏りがあると、特定の属性の患者さんに対して不正確な、あるいは不公平な判断を下す可能性があります。臨床検査技師は、AIが提示する結果が全ての人に対して公平であるかという視点を持つことが大事です。
次に「透明性」と「説明責任」です。AIのアルゴリズムやデータ処理プロセスが透明であり、AIの決定に対して誰が責任を負うのかが明確である必要があります。AIが誤った判断を下した場合、原因究明と再発防止のため、AIの開発者、医療機関、そして最終的な判断を下す医療従事者それぞれの責任範囲を明確にすることが不可欠です。
さらに、「プライバシー保護」も極めて重要です。生成AIは大量の個人医療データを学習しますが、その過程で患者さんのプライバシーが侵害されないよう、匿名化やセキュリティー対策が徹底されている必要があります。データ保護に関する法的規制を順守し、患者さんの信頼を損なわない運用が求められるわけです。
◆フェイク(虚偽情報)・ハルシネーションへの警戒
生成AIは、本物と見分けがつかないコンテンツを生成することがあります。これを「フェイク」と呼び、医療分野では重大なリスクです。AIが架空の検査結果や病歴、虚偽の医療画像を生成し、それが現場に紛れ込むと、誤診や不適切な治療につながりかねません。
さらに、AIは事実に基づかない、完全に架空の情報を生成することもあります。これは「ハルシネーション」(幻覚)と呼ばれ、AIが学習データにない情報を“でっち上げて”しまう現象です。例えば、存在しない病名や誤った治療法を提案するケースが考えられます(図)。ハルシネーションによる情報は、一見もっともらしくても事実と異なるため、誤った医療判断を導く危険性があります。

臨床検査技師は、生成AIの情報をうのみにせず、常に批判的な視点を持つことが極めて重要です。情報の出どころを確認し、複数の情報源と照合するなど、信憑性を慎重に評価しましょう。特に、異常値や医学的に不自然な情報に接した場合は、それがAIによる「フェイク」や「ハルシネーション」の可能性も考慮し、注意深く確認する姿勢が求められます。
◆生成AIを賢く利用するために
生成AIは、臨床検査の未来を大きく変える可能性を秘めた強力なツールです。臨床検査技師として、私たちは単にAIの機能を利用するだけでなく、その技術の限界とリスクを深く理解し、常に批判的思考を持って接する必要があります。AIが提供する情報を盲信せず、自らの専門知識と経験に基づいた臨床的判断を最終的なよりどころとすることが、質の高い検査結果を提供するための鍵となります。
生成AIを賢く、そして責任を持って活用することで、臨床検査技師の業務はさらに高度化し、患者さんへの貢献度も高まるでしょう。私たちは、この新たな技術とどのように向き合い、医療の発展につなげていくか、常に問い続ける必要があるでしょう。
※次回(9月25日木曜日配信予定)の最終回では、「データ解釈、報告書作成、インシデント対策」などを解説する予定です。
野坂 大喜
PROFILE |大学病院勤務を経て現職。医用工学・情報科学を専門とし、病理画像診断システムの開発に携わる。大学発ベンチャー取締役の企業経験も有し、現在は医療AI技術や医療VRの研究を進めると共に、AI社会における言語技術教育に取り組んでいる。