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〈インタビュー〉藤村博和さん(滋賀医科大学医学部附属病院、日本臨床衛生検査技師会理事)頼まれたら「ノーと言わず、一度やってみる」


 インタビュー「きらり臨床検査技師」は検査技師としての本来業務だけでなく、所属施設外で精力的な活動を行っている方、興味深いテーマや研究に打ち込んでいる方、ユニークな資格や経歴を持つ方など、編集部が“きらり”と感じた検査技師を紹介します。(MTJ編集部)

 
 滋賀医科大学医学部附属病院検査部の藤村博和さんは、日本臨床衛生検査技師会の理事では最年少。大学病院の日常検査業務に携わる傍ら、県の技師会活動に参加していたところ「日臨技の理事に」と声がかかった。「頼まれたら、できるだけノーとは言わない」「とにかく一度引き受けてやってみる」がモットー。理事としての自分の役割は、「次世代の考えを理事会で発言すること」と捉えて引き受けた。
 「臨床検査技師が誇りを持って働ける業界にしたい」と熱い思いを抱いている藤村さん。実は、大学を中退して一度社会へ出た後、キャリアを再構築する挑戦だった。臨床検査技師になるまでの道はやや遠回りした藤村さんに、キャリアの構築や臨床検査技師のやりがいなどを伺った。
 
大学を中退、社会へ出ることに

―臨床検査技師を目指した背景やきっかけを教えてください。
 高校生の頃は、漠然とですが「人の命に関わる仕事がいいな」と思っていました。当時の成績などを踏まえて医療系の学部をいくつか受験し、地元の大学に進学しました。

 幼い頃に母親と離別しており、父は単身赴任、祖母一人、子一人の家庭でした。父は小さな会社を経営していたのですが、私が大学に入学して間もなく経営が傾いてしまい、経済的な問題が発生しました。学費を捻出するのが厳しく、私自身も働いて家計を支えなければならなくなり、中退して社会に出ることになりました。

 飲食業や小売店などの接客業、家庭教師や配達員など複数のアルバイトを掛け持ちして働きました。定職としていた学習塾講師時代に、やはり学歴や資格が人を評価する指標の一つになっていることを実感しました。高卒で専門資格は何も持たずに社会に出て、このままでは将来が見通せないという危機感も強くなり、改めて大学進学を決意し、山口大学医学部保健学科に合格したことで臨床検査技師への道が将来の選択肢に入りました。

―大学で臨床検査の魅力にはまったのですか?
 医学部の基礎研究にどっぷりはまりました。特に脳の研究の中でも「痛み」をテーマに研究されていた教授からお声をかけていただき、身の上を話す機会があった際に「研究室に手伝いにおいでよ」と誘っていただいたのがきかっけです。それで医学部の研究室に出入りするようになり、研究のいろはを学び、実験で使うラットを育て、研究モデルを作製し、免疫染色やPCR検査装置を使って組織や細胞に現れる痛み関連物質を測定し解析を行っていました。脳の研究はとても奥が深く面白かったです。

 そういった体験もあって、卒業後の進路は、日常検査だけでなく研究に携わることができる大学病院を選びました。地元から比較的近い滋賀医科大学医学部附属病院に入職することができ、2025年で勤続10年になります。入職以来生化学・免疫検査を担当しています。精度管理やメンテナンス、検査室の管理が主な仕事で並行して研究をいくつか進めており、論文の作成や発表スライドの作成も行い、ISO15189の関連の主要な業務にも携わっています。次のステージとして社会人として働きながら大学院への進学も視野に入れて活動しています。

声がかかるのは、期待されているから

―技師会活動に参加するようになったきっかけを教えてください。
 滋賀県臨床検査技師会の免疫検査研修会に参加したことがきっかけになり、免疫関連の精度管理部門や学術班の活動に誘っていただきました。私は「頼まれたら、できるだけノーとは言わない」と決めています。声がかかるということは、私に何かを期待されていることだと考えています。その依頼は自分にとってチャンスかもしれないので、それを自分で消すことはない。一度断ってしまったら、次の機会に声をかけてもらえるかどうかは分かりません。次の機会はないかもしれないじゃないですか。「とにかく一度やってみて、無理だったらその時に考えよう」と何事も前向きに取り組むようにしています。

 私はあまり物おじせずに、知らない人の間に入っていけるタイプだと思います。懇親会などで一緒になって仲良くなった方から別の研修会の講師の依頼をいただくこともあり、県技師会から近畿支部へと活動の幅が広がっていきました。そして2024年、日臨技の新執行部が発足し、会員の皆様の承認を得て理事になることができました。

―技師会活動で心がけていることはありますか。
 私は、社会に放り出された時、マイナスからのスタートだと実感しました。臨床検査技師としてのスタートも同世代の人より遅く、その分がむしゃらに取り組むしかないと思っています。日臨技の理事として私ができることは、次世代の意見を伝えること。組織で役職に就く人は年齢的に上の世代の方が多いので、次世代の声を届けていこうと思っています。上の世代が多いとこれまで慣習的に行われていたことがとくに議論されることなく決議されます。これまでよかったからといって次回もうまくいく保証はどこにもありません。状況は刻一刻と変化しており、いまの体制に一度疑問をもち精査するという意識はぶれずに持っていないと組織の衰退につながると考えています。

 医療業界は大きな転換期を迎えており、タスクシフト/シェアや医療DXの活用、AIとの共存など課題は山積みです。人員増が見込めない中で業務増にどう対応するのか各施設でも大きな視点で様々なことを対応していただかなければなりません。これまで一般会員として好きなことを言っていた私も立場が変わり発言に責任を持たなければならなくなりました。

 現在日臨技の活動では、臨地実習指導者WGや次世代人材育成プロジェクトWGの末席に入らせていただいています。指導者の育成や次世代の育成は未来の検査技師の質を高めるとともに今後の組織を強固にする意味でも欠かせない分野であり身の引き締まる思いです。少子化と比例して患者さんも減り、検査技師の数も減るこれからの時代に臨床検査技師が誇りを持って働ける業界にしていきたいですね。

―若手の検査技師に向けたメッセージをお願いします。
 これからの臨床検査技師は、特定の領域に固執するのではなく、横断的な知識や技術が必要になると感じています。自分が担当している領域だけでなく、プラスαの知識や技術を身に付けていくことが大事です。病棟に出て患者さんに接することも、プラスαになると思います。臨床検査の領域に限らず人生の中でこれまで得た知識や経験というものはいつか何かの役に立つ可能性があります。若手に限らず中堅やベテランの方も、新しいことをとにかく一度やってみて考えていただきたいと思っています。新しいことをはじめるのに早いも遅いもありません。勇気をもって一歩、踏み出してみてほしいです。きっとこれまでと違う風景が見られると思います。



2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

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