top of page

〈第3回〉地域医療構想編


神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)

 

今回のキーワード

医療の需給バランスの変化

地域医療分析×検査技師

検査ニーズ試算と技師配置

 

 第3回目の今回は、各地の医療提供体制の今後を方向づける重要政策「地域医療構想」をテーマに、地域データを基にした医療政策の意義と、医療現場に与える影響、それぞれの地域の臨床検査体制について考えてみたいと思います。


病院の未来は、地域医療構想次第?


 人口減少と高齢化の問題は、労働力の減少と医療ニーズの質・量の変化をもたらします。そして、これらにより医療の「需要」と「供給」のバランスが変化すると、現在の医療提供体制が崩壊してしまう懸念が出てきます。これを打開する一つの策が、厚生労働省が推し進めている地域医療構想です。この仕組みでは、年齢階級別人口や受療率などを基に、全国各地の医療ニーズを行政が計算し、2025年に必要となる病床数や病床機能、外来医療の在り方等をシミュレーションしています。これは「需要」に関する情報となります。加えて、病院や有床診療所等の病床の数や種別、そこで働く医師や臨床検査技師らを含めた医療従事者数といったさまざまな医療機関の情報が収集され、データベース化されています。こちらは「供給」に関する情報です。


 これらのデータを突き合わせて、侃々諤々の議論をしていこうというのが地域医療構想調整会議であり、皆さまがお住まいの地域ごと(2次医療圏ごと)に話し合いがされています。例えば、「この地域には回復期病床が100床足りなくなるので、どこかの病院でその役割を担えないか?」や「急性期病床数が将来の地域人口に比べて多すぎるので、うちの病院は病床削減を検討します」「同じような医療機能を持つ病院が近くにあるので、お互いの医療機能を整理しましょう」というように、医療機関経営者たちが集まり、医療機関の機能分化と連携を推し進める議論を積み重ねています。


 このような地域医療構想に用いられている医療機関データの多くは、ウェブ上で自由に閲覧およびダウンロードが可能です。東京都で言えば、「東京都病床機能報告」と検索すれば、病院等から報告されたデータが年度別・施設別に確認できます。また、地域の将来推計人口等のデータについては、連載第1回の「人口構造の変化編」(本紙2023年9月1日号掲載)でも少し触れましたが、国立社会保障・人口問題研究所ホームページでダウンロードが可能です。加えて、最近では地域分析が容易にできるツールがいくつも無料公開されています。例えば、「Tableau Public」のページでは、地域医療分析で御高名な国際医療福祉大学の石川ベンジャミン光一先生が作成されたグラフが登録されており、疾患別の患者推計等を簡単に出すことができます。これは臨床検査のターゲットとなる疾患群について、自院の地域では将来増えるのか減るのかを把握することにも使えます。


 このように地域の分析を行い、自院のこれからの役割を考え、自身が所属する検査室の運営に落とし込むこと、そして臨床検査技師個人として地域医療を考えていくことは、今後ますます必要となる能力の一つと考えられます。日本臨床衛生検査技師会が主催する医療技術部門管理資格認定制度では、秋の集合研修として病院分析・地域分析を2日間でマスターする講座を毎年開催しています。これまでに40人近い検査技師が受講し、地域分析の手法をマスターしました。それぞれの地域で「地域医療分析官×臨床検査技師」として活躍するのも、検査技師の将来の姿として一つかもしれません。


検査ニーズ減と、技師の適正配置


 それでは実際に、地域医療構想のデータを参考にしつつ、将来推計人口や受療率、1日当たり検査点数などを用いて、各都道府県における臨床検査ニーズを試算してみたいと思います。前情報として、臨床検査の「延べ算定回数」は入院と入院外では入院外の方が14.2倍多く、「1日当たり検査点数」においても入院外の方が3.1倍高くなっており(2021年社会医療診療行為別統計)、臨床検査のメインターゲットが外来医療であることも押さえておきたいと思います。その上で、将来の入院患者数および外来患者数に1日当たり検査点数を掛け合わせることで臨床検査ニーズがどのように変化するかを試算します。


 沖縄県、東京都、神奈川県、愛知県は臨床検査のニーズが増加する予測です。これは外来医療のニーズ増加に伴うものと考えられます。一方で、それ以外の43道府県では入院ニーズが増加する地域であっても外来ニーズが減少するため、臨床検査ニーズも減少する予測となりました。このように地域の将来推計人口などの地域データを組み込んで見える化すると、地域差が非常に大きく、将来的にも大きな変化になることが分かります。つまり、医療の提供体制はもちろん、地域の臨床検査体制、臨床検査技師の適正配置という意味合いでも、地域別の医療需給の変化を把握しておく必要性が理解できると思います。


 私はよく人口減に向き合う地方を訪れ、地域医療の現状をヒアリングすることがありますが、やはり地方では想像以上に医療人材が集まらないという声を聞きます。オールジャパンの限界として、都会から地方へ人材が流れるという理想論が崩れているのをヒシヒシと感じているところです。今後は地域をエンパワーすることが医療の未来にとって重要だと筆者は考えていますが、皆さまはいかがお感じでしょうか。


(MTJ本紙 2023年11月1日号に掲載したものです)

 

神戸 翼

PROFILE 慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。

Comments


その他の最新記事

bottom of page