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〈第20回〉高等教育の無償化編

  • kona36
  • 8月5日
  • 読了時間: 5分
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神戸 翼(永生総合研究所 所長/臨床検査技師)

今回のキーワード

高等教育の無償化

短大生や専門学校生の増減

臨床検査技師の数と養成校の運営形態

 少子化で気になるのは、これからの時代を担う若者世代の動向です。彼らは将来設計を見据え、安定して生活を送ることができる仕事や学校を選択します。一方で、現在と10年前、20年前とでは、社会環境も個々の考え方も様変わりし、それらに応じた仕組みが求められています。今回は高等教育の無償化という政策テーマを取り上げつつ、学生の動向について考えてみたいと思います。

大学進学率は増、高校生は減

 文部科学省が行う学校基本調査では、高等教育機関(大学・短大・専門学校等)への進学率は10年前(2013年)は80.0%であったものが、2024年には87.3%と増加しています。一方で、高校卒業生は20年前(2004年)が124万人であったものが、2014年には約105万人、2024年には約92万人と減少しています。このように高校卒業生が減っているものの大学等への進学率が高いことから、依然として高等教育機関への社会的ニーズは高く、国民の高学歴化の傾向は強いと考えられます。この背景には、VUCA(ブーカ)という不安定な環境が影響し、より良い職に就き安定した生活を送りたいという個々の行動心理も影響していると思われます。ただ、ここで言う「良い職」や「安定した生活」の定義も大きく変化しつつあることには留意が必要です。

地域ベースで見る高校生の進学傾向

 最近、短大や専門学校、地方の私立大学では定員割れをしていると言う話をよく耳にします。実際に地域では何が起こっているのでしょうか。京都府をケースに少しデータを見てみたいと思います。

 地域の人口データを基に試算すると、京都府では2020年に2万人近くの高校生が卒業し、次のステップに進みました。さらに、ここ数年は1学年当たり毎年400人程度が減少しています。実はこの先10年間も毎年300~400人近く減少することが試算されています。この400人という数字は養成校の臨床検査コースの定員を想像しながら考えてみると、決して少なくない数だというのが分かります。ちなみに、関西6府県で見ると2019~2020年で、1学年当たり2500人程度減っており、関西全体としても減少は顕著です。話を戻し京都府で考えてみますと、10年たてば地域で3000人以上もの高校生が減少する予測です。こうした状況下できれいなキャンパスを構え、先進的な学問を提供する新設大学が立ち上がったとすると、地域の短大や専門学校の行く末はとても厳しいものになることが想像できます。分野に関係なく学生の取り合いになることはますます必至のようです。

 こうした地域の高校生が減少する一方で、そもそも京都府に住む高校生はどのような行動をしているのでしょうか。2020年の同調査によると、京都府内の高校を出た学生の45%(8000人程度)が府内の大学・短大へ進学すると報告されており、想像以上に流出していることが分かります。一方で、京都府内の大学等に入学している学生数は3万6000人以上と集計され、入学者の4分の3は京都以外の都道府県から来ています。日本屈指の学園都市である京都特有の傾向が現れた結果と考えられ、学校を中心にかなりの人流が起きていることが分かります。総じて「地域」によって高等教育機関の学生層が大きく変わり、地域経済に影響しています。そして、学校の立場で言えば、学生集めのポイントも「地域」によって変わってくることが示唆されます。

検査学生を増やす策を考える

 ここまでの話は「人口減少によって」学生数も減っていくという視点をベースにデータを見ています。その一方で、実は全く逆の結果があります。同調査における関西6府県の高等教育機関・学生数データでは、2010年から2020年にかけて約1万9000人の学生が増えています。一見、これまでの話と相反するように感じますがそんなことはなく、高校生の数は減っても大学等進学率が増加しているため、結果的に高等教育機関の学生数は増える結果となっているのです。この事例から学ぶことは、年少人口の減少が必ずしも高等教育機関ニーズの減少にはつながらないということであり、地域の魅力が伝わり、社会風土と個々のマインドが変われば人口減少社会においても課題を払拭できるという好事例と考えることができます。こうした意味でも、養成校の魅力、医療者や臨床検査技師の魅力について、個々のマインドに引っかかるような尖った働きかけによって、さまざまな可能性が広がるのではないかと感じています。

 そして、大学進学率の上昇という流れを止めないため、国が進めようとしている「高等教育の無償化」という政策テーマにおいては、現実的なお金の議論となっています。具体的には国が主体する給付型奨学金や授業料・入学金の減免となりますが、これは総合大学だけの話ではなく、医療系養成学校も対象となっています。加えて、無償化というキーワードでは、学校主体や地方自治体主体の奨学金、地域の有志や技師会による基金、病院や企業が福利厚生と組み合わせて支援する仕組みも存在し、今後、特に考えていくべきテーマと言えます。

養成校の運営と自分事化

 実は前述の学生数増の内訳として、短期大学の学生、高等専門学校の学生は減少し、それを大きく超えて大学の学生が増加しているため、トータルで学生数が増加しているという構造があります。これは短大・専門学校が今後ますます厳しい状況になるかもしれないという一つのメッセージでもあります。

 国内には臨床検査技師を育てる短大・専門学校の養成校が27校近くあり、定員数を合計すると1300人近くになります。そして、当然ながら検査学生の数は、そのまま現場で働く臨床検査技師の数に直結するわけです。つまり、学生が少なくなってしまえば、その分現場の負担も増える懸念があります。そうした意味でも、医療現場や検査センターで活躍する現役技師や臨床検査分野の関連企業でも、この「検査学生の数と養成校の運営形態」というテーマを、自分事として捉えていく必要があるのではないかと考えています。

(MTJ本紙 2025年4月1日号に掲載したものです)

神戸 翼

PROFILE 慶應大学院で医療マネジメント学、早稲田大学院で政治・行政学を修め、企業、病院、研究機関勤務を経て現職。医療政策と医療経営を軸に活動中。

2024.06.03_記事下登録誘導バナー_PC.png

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