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〈レポート〉#06 若手検査技師が救命センターで診療支援 大阪赤十字病院


 臨床検査技師が救命救急センターの診療支援に入り、医師や看護師の負担軽減に貢献しながら、タスクシフト・シェアを進める試みが進んでいる。大阪赤十字病院(大阪市、883床)では所属する臨床検査技師のうち、若手検査技師が救命救急センターをサポートする体制を取り入れて約3年が経過。搬送患者への新型コロナウイルス感染症検査の担い手としてだけでなく、救急現場で検査技師が持つ技術や知識が評価され、常駐配置を求める声が高まっている。検査室では得られない経験が若手検査技師の意識改革にもつながっている一方で、時間外業務の運用になっている現在の支援体制をどのように位置付け直すかという課題にも向き合っている。
 
大阪赤十字病院
 大阪赤十字病院は大阪府内最大規模の病院の一つで、救命救急センターを持つ3次救急医療機関として地域での中核的な役割を担う。コロナ禍前(2019年)の受診患者数は約2万1000人で、救急車搬送受け入れ患者数は府内トップクラスの約9700人だったが、コロナ急拡大の影響で救命救急センターの診療実績は減少。その後、コロナ流行状況を見極めながら、病院として救急受け入れ体制の立て直しを重点課題に掲げ、多職種による専門チームを導入するなど、収益部門である救命救急センターの体制強化に取り組んできた。

 臨床検査科部としても、救急医療部門への人材派遣が、病院の重点方針に沿った取り組みになるだけでなく、タスクシフト・シェアへの対応や臨床検査技師の院内の存在価値を高める機会になると判断。2021年10月から救命救急センターに臨床検査技師を派遣する体制を整えた。

 救命救急センターの診療支援は、65人の臨床検査技師のうち生理検査部門の4人からスタート。その後、検体検査部門の担当者も加わり、現在は主任以下の若手検査技師15人が、2人一組もしくは1人で救命救急センター業務に従事する。診療支援業務は、時間外業務の扱いにしているため、日常の検査室業務終了後の業務になることに理解を示す若手検査技師が自発的にローテーションを組みながら支えている形だ。

◆診療支援時間は午後5~8時


救急救命センターでの診療支援の様子
 業務時間は平日の午後5~8時。臨床検査科部主任の沼田智志氏は、この時間帯について、「周辺医療機関の診療時間が終わり、救命救急センターの受診者数が大きく増え始める時間帯だ。救急搬送の断り件数も多かったが、この時間帯の救急患者の受け入れ体制を強化する方針に検査技師が少しでも関わることができれば病院経営にも貢献できると考えた」と話す。

 救命救急センターで、臨床側から要望のあった業務は超音波検査、採血、心電図などだが、診療支援に入った当初は、発熱した搬送患者が多く、コロナ関係検査や検体搬送が主な役割を占めた。沼田氏は、「コロナ感染を想定しながらの診療では、医師や看護師の処置室外の移動が制限されたり、物品に触れることができなかったりなど通常時にはない負担感が大きかった」と説明。救急現場で動き回るスタッフの活動が制限され、人手も必要になる中で、臨床検査技師としてコロナ検査や検体搬送などの一定の役割を担えたのでないかと振り返る。コロナ対応だけでなく、採血や血液ガス分析、心エコー検査、腹部エコー検査といった日常的な検査業務の需要の高さも実感したほか、タスクシフト・シェアで認められた静脈路確保や検体採取などを実践する場にもなっているという。


◆救急部門からの高い評価


 救命救急センターの医師、看護師らを対象に、診療支援に入った臨床検査技師に関するアンケートを行ったところ、コロナ禍では、「重症患者対応の際、処置室の中と外回りを検査技師2人が分担して検査業務を担当してくれたことで、看護師が気管挿管や薬剤準備などに集中できた」「ベッドサイドの迅速PCR検査のおかげでスムーズに緊急心臓カテーテルが施行できた」などの記載があり、救急現場での臨床検査技師の存在を評価する声が出ている。

 臨床検査技師が持つ知識や技術に対しては、「適切な検体採取の方法、採取量に関する意見が聞けた」「検体の取り扱いミスが減る」「超音波検査の正確性が上がり、不要なCTを減らせる」「心エコーや心電図の判読が適切」「検査について積極的に提案してもらえるのはありがたい」などの声が寄せられている。

 救急現場でさまざまな患者と接することで、若手検査技師の業務意識にも変化が見え始めている。診療支援に入っている臨床検査技師へのアンケートからは、「検査値や画像検査からの診療補助ができるよう、幅広い知識や技術向上に努めなければならないと再認識した」「採血や検体分注時の注意点を説明でき、溶血や凝固を軽減できるだけでなく、血液培養汚染率の低下につながる」「検体搬送を臨床検査技師が行うことで、検査部への電話連絡や受け渡しが省略でき、看護師の負担が軽減されるだけでなく、搬送時に検査当直者と連携することで検査初動時間が早くなり、TATを短縮できる」などの意見が寄せられている。

◆救急経験が促す意識改革


佐藤技師長(右)と沼田氏
 臨床検査科部技師長の佐藤信浩氏は、救命救急センター業務を経験した臨床検査技師について、「教科書で習ったことを実践するだけでなく、実際に目の前の患者を見て考え、判断する経験は検査室ではなかなか積めない。救急の最前線に行く前と、その後では若手検査技師の顔つきが明らかに変わっている」と話す。その上で「検査技師である自分達の知識や技術が救急医療の現場で生かせることを肌で感じ取っている。検査のプロとして頼られることでいろいろと学びたいという思いも芽生え、それが間違いなく意識改革にもつながっている」と述べ、取り組みの意義を強調する。

◆「残業扱い」の限界も


 一方、救急現場の支援に入って3年が過ぎ、今後も臨床検査技師を継続して派遣していくための課題にも直面している。現在は、若手検査技師が時間外業務という形で自発的に診療支援する運用にしているため、いわゆる残業扱いの勤務になっているという点だ。検査室での本来業務は朝早くから始まるので、救急現場への診療支援に入る日は、勤務時間外での長時間勤務になり、働き方改革の面からも理解されにくい状況にある。コロナの5類感染症移行に伴い、手当等の経済的サポートも縮小されるなど、自発的な取り組みを支えてきた環境も変化している。

 佐藤氏は、「これまでは若手検査技師の自発的な取り組みに委ねてきたが、今の形での運用の限界が見え始めている。センターへの常勤臨床検査技師の配置を、診療支援に入る日は午後からの勤務にするなど考えられる改善策はある。ただ、救急現場に臨床検査技師を常駐させることの費用対効果の検証や、午前中に業務が集中しがちな検査室の日常を考えれば慎重に検討せざるを得ない」と悩ましい現状を打ち明ける。

 約3年間の取り組みが定着し、臨床検査技師の派遣に対する救命救急センターの期待が大きく膨らんだ一方で、今後も安定的に診療支援を継続していくための落としどころは描き切れない状況にある。臨床検査技師が活躍するフィールドの一つに、救急医療を位置付けるための生みの苦しみだが、臨床検査科部と救命救急センター、病院経営層が知恵を絞り、現実的な打開策を何とか見いだしたい考えだ。

(MTJ本紙 2024年6月11日号に掲載したものです)



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