〈サクッと解説〉#08 企業と医療機関をマッチングは機能するか ASCL、機器や試薬開発を支援kona368月5日読了時間: 3分 臨床検査支援協会(ASCL)が、検査機器や試薬の開発、改良を支援するネットワークの構築を進めています。ネットワークは、機器や試薬の開発を進めたい企業と、協力可能な医療機関をASCLが仲介してつなぐ仕組みです。現在、医療機関にデータベースへの登録を呼びかけており、2025年度内に50施設程度を集めたい考えです。その後、ASCL賛助会員企業から、臨床的検討の案件の依頼を受け付け、両者をマッチングしていく構想です。◆協力施設の選定を円滑に 機器や試薬の新規開発・改良には、患者の残余検体を用いてデータを収集するなどの臨床的検討が必要なため、医療機関の協力が不可欠です。企業は医療機関と個別に契約して実施していますが、近年、施設の選定に時間や手間がかかることが課題となっています。 ASCL副理事長の諏訪部章氏(新東京病院臨床検査部)は、「POCTなどの開発で新規参入の企業が臨床的検討をどの施設に依頼したらよいか判断に迷うケースがある。また、依頼先の医療施設からは関心がないことを理由に断られるなどのケースも多い」と説明します。また、依頼の中には「操作性について、検査の現場の意見を聞きたい」など小規模施設でも対応可能な内容があるものの、企業が独自に協力してもらえる小規模施設を探し出すのは難しいケースもあるといいます。ASCLは、こうした現状を踏まえて、ネットワークの整備に乗り出しました。 ASCLは、臨床検査技能の向上支援、検体検査の精度向上、臨床検査や臨床検査技師の認知向上のための普及啓発を行う非営利団体です。諏訪部氏は「臨床的検討に関する両者の橋渡しは、NPO法人であるASCLだからこそできること」と話しています。◆企業の依頼案件ごとに、医療機関のリストを提供 このネットワークでは、企業と医療機関のマッチングをASCLが仲介する形で行います。企業からの依頼案件ごとにASCLからデータベース登録医療機関に情報を提供します。登録医療機関は各案件に対して「◎:非常に興味がある」「○:興味がある」「△:説明を聞いてから考える」「×:興味がない」で回答。この回答を基にASCLが協力施設のリストを作成し、依頼企業に提供する流れです。依頼企業はリストを参考に、「◎」の回答施設と優先的に交渉します。 医療機関のデータベース登録は無料で、企業は依頼案件に応じてASCLに情報提供料を支払う仕組みとしています。情報提供料の詳細は今後検討しますが、新規製品10万円、改良品5万円程度に抑える見込みです。◆マッチング成功の鍵は? ネットワークが整備され、マッチングがうまく成立するようになれば、企業が臨床的検討に協力してもらえる医療機関を見つけるための手間や時間、コストが抑えられることになるでしょう。 一方、これまで企業とのつながりがなかった医療機関にとっては、機器や試薬の開発・改良に関わるチャンスになります。案件によっては、企業との取り組みの成果を論文にまとめたり、学会で発表したりすることになるかもしれません。こうした活動は検査部の実績となり、臨床検査技師のスキルアップにもなりそうです。機器や試薬を実際に使っている臨床検査技師の意見や要望が企業に届きやすくなり、より有用な機器・試薬の開発につながることは、臨床検査業界全体に貢献になるとも言えます。 マッチング成功の鍵は、企業、医療機関それぞれにとって「良い相手」「良い案件」が選べることでしょう。ネットワークを構築する取り組みは始まったばかりです。今後、データベースに登録する医療機関をいかに増やせるか。また、企業から魅力的な案件を依頼してもらえるのかどうかが気になります。また、「出会い」があっても「良い関係性」をつくれるかどうかは、お互いの努力次第かもしれません。マッチングした案件がどのような成果を生み出すのかにも注目したいです。(河)